大正から令和の今も活躍中! 飯塚市の喫茶店にあるかき氷機

今も現役で活躍する大正時代のかき氷機

 ウィーン! シュルシュル――。
 築約90年の喫茶店で、大正期に作られたかき氷機が低いモーター音を響かせながら氷を削っていく。残暑がなお続くなか、福岡県飯塚市の本町商店街そばにある喫茶店「しぇあ」では、製造から100年を超える"年代物"が、訪れた客に涼を提供している。

100年前の"最先端"


本町商店街のそばにある「しぇあ」


 この機械が店にやって来たのは10年ほど前のこと。店主の藤嶋節子さん(74)が、夏の目玉メニューにかき氷を加えようと製造機を探していたところ、知人から「古いけど、きっと店の"顔"になるよ」と紹介された。


店の"顔"となった大正時代のかき氷機


 後日、大人3人がかりで運び込まれたのは、高さ約1メートル、重さ50キロほどの大きな機械。かつての"最新モデル"は上部にモーターを備えており、スイッチを入れると「ウォーン!」とうなりを上げた。「はじめはビックリしてね……」と振り返る。


「私と息が合うときは、うまく削れるんだけどね」


 慣れるまでは失敗も多かったそうで、1年がかりで氷をなんとか削れるようになったという。とはいえ、今でも一筋縄ではいかないようで、「機嫌を損ねると、思うように削ってくれない」と、どこかあきらめ顔だ。


モーターを内蔵した当時最先端のかき氷機だった


 この大きな機械、筑豊では名の知られた大工に借りたものとのこと。炭鉱で地域がにぎわった時代、持ち主は祭りなどの機会に、従業員やその家族にかき氷を振る舞い、とても喜ばれていたそうだ。


いまだに故障知らずだ


 「使用回数が少なく、倉庫で眠っていた期間が長かったから、今でも元気に働いてくれるのでしょう」と藤嶋さん。部品に油を差すなど基本的なメンテナンスを続けており、いまだに故障知らずだ。


過ぎた時代の気配も


でき上がった抹茶味のかき氷を手にする藤嶋さん

 店の一番人気は抹茶味のかき氷。器に盛られた氷は、カンナで削った木片のように薄く、口当たりはフワッと舌の上でやさしく解ける感じだ。どこか懐かしい冷たさが口の中に広がった。


こぢんまりとした店内


 「インスタグラムを見て来ました。すごい!」。SNSや口コミで大正時代のかき氷機の存在が知られ、カウンター4席とテーブル2卓だけの小さな喫茶店には、常連客に交じって若い声も聞かれるようになった。


「おばあちゃんの家に来たみたい」


 「おばあちゃんの家に来たみたい」「隠れ家みたいで落ち着く」と、ノスタルジックな店の居心地のよさから、時間を気にせず過ごす高校生の姿も見られるという。


涼しげな一杯が迎えてくれる


 大正から昭和、平成、そして令和へ。大きな機械音とともに皿の上に重なっていく氷の層は、ひんやりした涼のほかに、過ぎた時代の気配も届けてくれるようだ。残暑の状況にもよるが、9月いっぱいはかき氷を提供する予定だという。



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