中南米の街角を切り取ったような福岡市・六本松のコーヒー店

カラフルな外観が目を引くバスキングコーヒー 六本松店

 ひと目で、その外観に心を奪われた。福岡市中央区六本松の住宅街にある自家焙煎(ばいせん)コーヒーの店「バスキングコーヒー 六本松店」。赤や青、黄色などカラフルな雨戸を組み合わせた外壁が、中南米の街角を切り取ったような異国情緒を漂わせている。

ひときわ目を引く外観

 個性的な店が点在する六本松エリアでも、ひときわ鮮やかな色合いで道行く人の視線を引き寄せるカフェ。なぜ、壁一面にカラフルな雨戸を取り付けたのだろう――。オープンから間もなく1年を迎える店を訪ねてみると、バスキングコーヒーを4店展開する榎原圭太さん(41)が迎えてくれた。福岡のコーヒー通には名の知れた存在だ。


50枚以上の色彩豊かな雨戸が壁を覆う


 外壁のデザインは、20~30歳代にかけて世界を旅した経験から着想したそうだ。コーヒー豆の産地を知りたいという思いから、バックパッカーとして中南米など約40か国を歩いてきた。旅の中で特に心に残ったのが、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスのラ・ボカ地区で目にした街並みだったという。


3年ほどかけて世界を旅してきた榎原さん


 移民が廃材を利用して建てた家々は、パッチワークのようにふぞろいでカラフル。貧しい環境から生まれた工夫と創造力が、アートとして文化的な輝きを放っていた。「いつかこんな魅力を発信する店を作りたい」。榎原さんは心に深く刻んだという。


店の周囲にコーヒーの香りが漂う


 外壁を彩る50枚以上の雨戸や、店内外の木材はアメリカの古民家から買い取った。仕入れ先の業者と試行錯誤し、色を塗り直しながら、ラ・ボカの記憶を再現した。


アメリカから輸入した古材をふんだんに使った



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誰にもおいしい一杯を

 店の魅力は外観だけではない。それ以上に、コーヒーに対するオーナーの情熱が印象に残った。「多くの人にもっと日常的にコーヒーを楽しんでほしい」と語る榎原さんは、豆選びに強いこだわりを持つ。毎年冬には2週間ほど中米コスタリカの農園を巡り、生産者に直接会って、その年の出来具合を"取材"する。


中南米の農園を巡って買い付けたコーヒー豆


 店内1階の大きな窓からは、ドイツの老舗メーカーが手がけた焙煎機が稼働する様子を眺められる。その価格、およそ1000万円! 榎原さんが「この味なら」と納得して選んだ1台だ。


店の窓から見える榎原さんこだわりの焙煎機


 明るい外観とは対照的に、店内は木のぬくもりが感じられる落ち着いた空間だ。口にしたコーヒーは、果実のような風味とチョコを思わせる香りが重なり、心地よい余韻が長く続く。


「豆本来の味が出ている」「フルーティー、甘くてびっくり」といった声が聞かれる


 本来は「豆を売る店」なのだという。カウンターに無料の試飲コーナーを設け、「今日のコーヒー」を350円の低価格で提供しているのは、「一度飲めば味の違いをきっと分かってもらえる」という自信があるからだ。産地や生産者の情報が記された様々なコーヒー豆を、その場で試すことができる。


各国のコーヒーを自由に試飲できる


 榎原さんが目指すのは、海外のカフェのように気軽に立ち寄れる場所。肩肘張らずにリラックスして、世界の産地や栽培に携わる人たちに思いをはせながらコーヒーを味わえる空間だ。


古民家を改装した落ち着きのある店内


 「理想の味は決まっているんです」と榎原さん。目指すのは、コーヒー通ではない人にも「おいしい」と思ってもらえる"普遍的"な一杯だ。その静かな口調からは、揺るがない信念と情熱がにじみ出ている。気がつけば、コーヒーと店が放つ熱気にすっかり魅了されていた。


「コーヒーに詳しくない人にも、おいしいと思ってもらえる一杯を」



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