「菌」曜日に会いましょう 油山のきのこちゃんが観察会と動画で菌類の魅力を発信中

 取材日は雨。「今日は巡り合えないかも…」と、しょんぼり向かった油山市民の森自然観察センター(福岡市南区)で、「きのこちゃん」こと岩間杏美さんが「雨上がりはヤバいですよ、秒で見つかります!」と迎えてくれました。きのこ観察の達人で、きのこへの愛を世に伝えるクリエイターでもある彼女に人生の物語を聞きました。


岩間杏美(いわま・あみ)さん

1994年生まれ。2019年から油山市民の森 運営広報班の職員として勤務。毎月第3菌(金)曜日に観察会「油山きのこ倶楽部」を開催し、毎週菌(金)曜日に動画「きのこちゃんのきのこ図鑑」(きのこの解説+自作アニメ劇場)を配信中。


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第3「菌」曜日は油山きのこ倶楽部

 きのこちゃんが「油山きのこ倶楽部」を始めたのは今年の春。毎月第3金曜に、きのこの定点観測をしながら、広報活動として観察ガイドもできるので一石二鳥!

 ただ、新型コロナウイルスの影響で開催はまだ2回。3回目は定員10名の満員御礼で張り切ったものの、雨で中止になりました。


最初に見つけたキクバナイグチ

 小雨の中、観察会の要領で森を一緒に歩くと、確かに「秒」で発見!切り株の脇、落ち葉の隙間、コケの間に、ひっそりときのこが。記者が1人で歩いたときは目に入らなかったのに、きのこちゃんは次々と見つけ、「あ、スジチャダイゴケの赤ちゃんが出てるね」と、気心知れた友だちに挨拶するような調子です。


ベニタケの仲間を発見

 「きのこの本体は傘じゃなくて地下の菌糸ですよー。100年くらい生きる種類もあります」「落葉や虫の死骸を分解して土にかえすのが仕事。きのこは森の掃除屋さんかなあ」と初心者にも分かりやすく解説してくれます。ほんの15分ほど一緒に観察しただけでも、きのこと仲良くなった充実感が湧いてきます。


発光するヤコウタケ。油山で見つかることも!(提供:油山市民の森自然観察センター)

「油山きのこ倶楽部」の参加方法
開催日:毎月第3金曜(次回は11月20日 10:30〜12:00)雨天中止
対象 :18歳以上で定員10人
参加費:1人500円
※次回11月の申し込みは「行事お申込みメールフォーム」で10月30日まで。
※敷地内のきのこを採取・持ち帰ることはできません。
※新型コロナウイルス感染拡大の状況により、中止の場合あり。


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世界で唯一の観察誌は48冊に


 子どもの頃は生きものが好きなわけではなかったそう。父と釣りに出かけたものの退屈で、松林を歩いているときに野生のきのこに遭遇。そのインパクトが忘れられず、祖父にきのこ図鑑を買ってもらい、山へ「絵合わせ」に通うようになりました。

 「カラフルで、奇妙な形のものもあり、図鑑と見比べて名前や特徴を調べることに夢中になったんです」


思い出の図鑑は今もバイブル


 高校はデザイン科に通ったきのこちゃんは、野帳(観察や調査専用のノート)にきのこの観察誌をつけ始め、「メモを取るって大切」「絵を描くって楽しいな」と気づきます。


高校時代の観察誌

ヘビ皮や植物もスクラップ


 大学では緑地環境学を学びながら、「自分だけの、世界で一冊の観察誌をつくろう」とさらに熱が入ります。 見ること、描くことによって「違い」を発見し、分類することに没頭したそうです。細密な描写、斬新な構図や表現アイデアは独創的!観察誌は着眼点の記録であり、自分らしい表現の模索のあと。今や48冊になりました。


絵巻「人生植菌図譜」は大阪市立自然史博物館に出展


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日本一周きのこ旅は「人間」武者修行

 大学卒業を前に、将来を悩んだきのこちゃん。「研究者になりたいわけじゃない。いろいろなきのこを観察して絵も描きたいけど、私は人に伝えたい!」と、福岡県東峰村の地域おこし協力隊員として活動するなど自然に関わる仕事を転々とします。

 田舎暮らしはおもしろく、人の温かさを教わったものの、人との関係をつくる難しさも痛感。仕事が変わるたび、「ずっといる場所じゃない」という思いがつきまといました。ついには、貯金を握りしめて「日本一周きのこ旅」に出ることを決めます。


画材を積んで自転車で長崎を旅した(提供:岩間さん)

 「日本中のきのこと、きのこプロに会いたい」。この旅は、きのこの専門家、観察会の主宰者、イベントの仕掛け人など「きのこに関わる人」のフィールドワークという目的もありました。九州、沖縄、四国、山口、関西、甲信越、北海道まで。友人宅に泊めてもらい、「きのこプロ」のツテは旅をしながら手探りで開拓しました。

 やがて、自分の思いを誠実に伝え、相手に敬意を払う姿勢が信頼を得る鍵だと気づきます。「きのこの観察以上に、人との関係をつくる武者修行でした。きのこプロとの出会いは宝もの」と振り返ります。

 旅を通して「生きものを見分ける力」が養われ、観察会でも自信を持って話せるように。「『きのこちゃんの観察会が一番好き! 分からないことは濁さず、本当のことを教えてくれるから』って言われてうれしかった」と今日一番のスマイルです。


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令和のムービングきのこ図鑑

 毎週金曜には、1種類のきのこを取り上げて解説と自作アニメーションで構成した動画「きのこちゃんのきのこ図鑑」を配信。きのこが生まれて朽ちるまでの一瞬を切り取った短い物語をスマホアプリでつくり、作曲・演奏まで手がけています。

 「令和のムービングきのこ図鑑かな。次の夢はアニメで長編物語をつくること! その前に観察誌を本にしようと頑張っています」


 きのこへの愛と創作意欲はどこから?と聞くと、「 私の人生どんだけ救われてきたか。きのこがいるから私がいるんです」と熱弁。「子どもたちがアニメや音楽をきっかけに、きのこや自然に興味を持ってくれたら。いろんな個性を伸ばして、やりたいことを見つけてほしいな」

 苦手なのは冬。「冬眠中は心が病みがちで描く気力も下がるけど、苦しいほど喜びの春が来るんですよね〜」。描く、創ることで前に進むきのこちゃんのこれからの物語が楽しみです。


施設名 油山市民の森 自然観察センター
所在地 福岡市南区桧原855-4
開館時間 9:00〜16:30(月曜休館)
電話番号 092-871-2112
公式サイト 油山市民の森

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