久留米の「竹」と「藍」で 地域の物語を味わうクラフトジン
バンブージン(右)とインディゴジン
記事 INDEX
- 豊かな資源
- 飲めば情景
- 新たな構想
福岡県久留米市の里山保全のために間伐された高良山(こうらさん)一帯の竹、久留米絣(かすり)の染料として重宝されてきた藍――。久留米の植物を有効活用した変わり種のクラフトジンが話題となっている。企画・販売する地元出身の起業家、高橋米彦(よねひこ)さん(46)は「人々がつないできた資源には物語がある。それらを詰め込んで魅力発信に貢献したい」と力を込める。
<クラフトジン> ジンは穀物からつくる蒸留酒に、植物由来の成分で風味をつけた欧州発祥の酒で、中でもこだわりの原料や製法でつくられたものを指す。球磨焼酎をベースに熊本県産のかんきつ類の皮などを使った「jin jin GIN」や、泡盛をベースに沖縄県産のシークワーサーやゴーヤなどを使用した「まさひろオキナワジン」など、日本国内で広がりを見せている。
豊かな資源
炭酸の泡がはじけるジントニックを口にすると、爽やかな竹の香りがすっと鼻を抜ける。
その名も「バンブー(竹の)ジン」。高良山(標高312メートル)は、中腹に黄金色の竹林「モウソウキンメイチク林」(国指定天然記念物)を有するなど豊かな竹資源で知られる。
だが、かつて日用品に多く使われていた竹の需要は減り、放置竹林が増加し、根の浅さから土砂崩れにつながる恐れも指摘された。そのため地元では、宝の山を次代に引き継ごうと、任意団体「高良山竹林環境研究所」(久留米市)が発足し、竹林の間伐やメンマ作りに取り組んでいた。
その活動を知り、クラフトジンのフレーバーに採用したのが高橋さんだった。「香りがよく、古くから竹酒などもある。何より、地元の人たちが守ってきた『ストーリー』がある」
飲めば情景
高橋さんは米国の大学を卒業後、大阪の大手電機メーカーなどを経て2009年に久留米市に戻り、不動産やレジャー施設の運営などを手がける親族の会社に入社した。つながりを大切にする地域の人たちに触発された高橋さんは、自ら地域に貢献したいと起業を決めた。
起業前にソムリエの資格を取得し、酒が地域とその歴史を凝縮した象徴的な存在であることを知った。どのような形で地域に貢献できるかを考える中で、起業した頃に長崎市で出あった長崎県五島市のツバキを使ったクラフトジンを思い出した。口に含んだ時、ツバキの香りとともに五島の海岸の情景が広がった。「自分もジンで久留米を表現しよう」と決意した。
ジンはヒノキ科針葉樹の果実「ジュニパーベリー」を主な香味成分とするが、自由にハーブやスパイスなどを加えることができる。長期熟成の必要もない。新規参入しやすいことも高橋さんの背中を押した。
「バンブージン」に思いを定めたが、間伐された高良山一帯の竹の香りを抽出するのに苦労した。蒸留を委託する静岡県沼津市の業者と改良を重ね、蒸留後に竹を1週間漬け込む方法にたどり着いた。竹は適度な水分で、2~3年生育したものが相性がいいことも分かった。
24年8月に売り出すと、最初の155本が20日ほどで完売するなどして評判となり、25年11月にはイタリアへの出荷も始まって海外進出も果たした。
新たな構想
第2弾に選んだのが、国重要無形文化財・久留米絣の染めに使われる藍だ。藍染め用の藍の生産地・徳島県産と、地元で育った藍の2種類を使った。ほのかな青色は別の植物で出し、「インディゴ(藍色の)ジン」と名付けた。久留米絣の創始者として知られる女性・井上伝の誕生日の25年1月24日に合わせて販売を始めた。
藍は古くから薬草としても使われ、解熱作用があるとされていたジンと共通すると感じた。「時代に合わせて変化しながらも、伝統を継承してきた久留米絣の『ストーリー』ごとジンに入れ込みたかった」と語る。今後は久留米市内に小型の蒸留器を設置し、自家蒸留を始める計画で、今年中の本格運用を目指している。八女茶や八女杉を使ったジンの構想も温めている。
社名の「ボトルドローカル」には、「ボトルに詰めた地域」との意味を込めた。25年は地域の魅力と課題を知ってもらおうと、高良山一帯で間伐を体験するイベントも開いた。「地域に根付いたものには、そこに暮らす人々の営みが息づいている。飲んだ時、情景が浮かぶようなものをつくりたい。それが、地域に貢献することだと思う」。高橋さんは夢を語る。
バンブージン(500ミリ・リットル)は6600円、インディゴジン(同)は7480円。







