【熊本】球磨焼酎の案内人講座 若手記者が挑戦してみた

 球磨焼酎は、熊本県・人吉球磨地域を代表する特産品だ。2020年7月の九州豪雨では27蔵のうち10蔵が浸水などの被害を受けた。多くの蔵が「歴史を守りたい」と被災から5年、復興の歩みを進めてきた一方で、原材料となるコメの価格高騰で再び危機に直面している蔵もあるという。「何度も危機に見舞われる球磨焼酎を応援できるような知識を身につけたい」。地元に根付き、愛される魅力や歴史を学ぶため、「球磨焼酎案内人」を目指して養成講座を受講した。(中村由加里)


球磨焼酎の条件や歴史について説明する大石専務(右奥)

会場は専門店のバー

 11月9日、会場の球磨焼酎バー「ロックスピリッツ」(熊本市中央区手取本町)には18人の受講者が集まっていた。大学生や会社員など様々な職種で年代も幅広い。参加費5500円を支払って末席に加わると、酒造会社の経営者らからの講座が始まった。

 「原料に国産米のみを使用している」「人吉球磨の水でもろみを仕込んでいる」「人吉球磨で蒸留、瓶詰めを行っている」――。講師で大石酒造場(水上村)の大石和教専務が、まずは球磨焼酎の厳格な定義を教えてくれた。

 当日は約100ページのテキストが配布され、定義はその最初に書かれている。製法は、「極楽」などで知られる林酒造場(湯前町)の林泰広代表取締役が詳しく説明してくれた。

 原酒は、蒸した米に麹(こうじ)菌を混ぜて麹をつくり、酵母と水を加えることでもろみにして、最終的に蒸留機で熱を加えて蒸発した成分を冷やすことで完成する。蒸留方法は、独特な香りと濃厚な味わいを引き出す「常圧」、さわやかな香りと軽快な味わいが楽しめる「減圧」の2種類。味わいや香りの違いからさらに四つに大別され、講義が終わると4種の試飲を勧められた。飲み比べると、それぞれの違いが分かってどれもおいしい。

 最後に筆記の認定試験があった。原材料などに関する計20問が出題され、8割以上で合格だ。多くの人にファンになってもらうため、まずは関心を持つきっかけにしてほしいと、現在はテキストを見ながら解いてもよいルールになっている。微酔していたが、焦らず解くことができ、約2時間の講座を終えた。

約20年前から開催

 講座は08年、検定ブームの到来などを受け、歴史的、文化的な価値の理解を深めてもらおうと球磨焼酎酒造組合が開催してきた。主催者によっては、飲食を伴う交流会が開かれる場合もあるといい、これまでに2207人(11月9日時点)が球磨焼酎案内人に認定されている。

 今回のように専門で取り扱うバーが主催するなど、普及を目指して柔軟な対応をとっている。バーのマスター、星原克也さんは過去にも店で開催したといい、「(球磨焼酎を)飲んだことがない人に良さを伝えてもらいたい」と、受講者が愛飲家の裾野を広げることに期待を寄せる。

 受講した水俣市の公務員、工藤真励奈(まれいな)さんは「案内人になっている友人がおり、自分も受けたいとチャレンジした。テキストを見ながらなので、気軽に挑戦できた」と話した。


受講後に届いた合格通知。認定書やピンバッジも添えられて届いた

無事合格に安堵

 講座から5日後、職場の机の上には、組合からの封筒が置いてあった。テキストを見ながら解いたとは言え、焼酎を飲んだ後だった。恐る恐る中の書類を出してみると、「合格」の文字。認定カードやピンバッジ、認定書も入っており、安堵(あんど)して思わず、周囲の先輩記者に自慢した。

 講義でも学んだが、実は戦時中から戦後にかけても、球磨焼酎には危機が訪れていた。コメは配給制で、1945~49年は米焼酎が全く造れない状況になり、芋焼酎を造ったという。

 それでも、コメの風味を味わえるようにと、米ぬかを炒(い)って原料に加えるといった工夫を凝らす蔵もあった。先人たちが時代背景や状況の変化に応じた知恵を出し、守り抜いてきたからこそ現在の球磨焼酎を楽しむことができる。

 コメの価格高騰という課題が立ちはだかる中、組合は「『国産米を使用すること』という厳格な定義のもと製造している。価格高騰が蔵元の経営に与える影響は深刻で、存続に直結する重大な問題」とする。一方、多くの蔵元がある人吉市では、コメ購入に給付金を支給する制度が始まり、他町村でも同様の制度創設に向けた検討が進められている。林代表取締役は「危機ではあるが前向きに考えて頑張るほかない」と語る。

 熊本に赴任して3年目。いずれは転勤の時が来るからこそ、熊本の魅力を全力で体感し、少しでも地域の魅力発信に貢献していきたい。


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