4000年の時を越え 福岡市美術館の「こぶうしくん」がジワる

 福岡市美術館(福岡市中央区)に、じわじわと人気を集めているキャラクターがいます。その名も「こぶうしくん」。その目は、とぼけているようで、悲哀に満ちたようでもあり、見れば見るほど愛着がわいてきます。謎多きキャラクターをふかぼりしました。


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ルーツはインダス文明

 「こぶうしくん」のモデルは、アジア圏などで飼われている「コブウシ」です。背中のコブが特徴で、厳しい環境でも生き延びることができるため、東南アジアや中央アジアでは農耕や荷物運搬などで活躍する家畜として広く飼われています。


アジア圏などで飼われているコブウシ(提供:福岡市美術館)

 紀元前5000~4500年には飼われていたとされ、インダス文明(紀元前2600~1900年)の遺跡からは、コブウシを模した土偶が多く出土するそうです。ヒンズー教ではシバ神の乗り物として、牛は神聖な動物とされています。

 福岡市美術館が2008年、中国の陶磁器を中心とする「森田コレクション」の寄贈を受けた際、インダス文明期の土偶6点も含まれていました。土偶には丸い目や、あばら骨とみられる背中の模様などがあり、キャラクターもその特徴を再現しています。


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苦い経験を乗り越えて

 キャラクター化のきっかけは、2011年の「夏休みこども美術館」でした。コブウシの土偶を展示したところ、子どもたちに大好評。学芸課の後藤恒さんは「会場のメッセージノートがコブウシの絵で埋め尽くされるほどでした」と振り返ります。


福岡市美術館が収蔵している「コブウシ形土製品」(提供:福岡市美術館)

 グッズ展開の可能性を探るべく、まずは土偶を描いた「付箋」を販売。しかし、まったく売れず、新たなグッズが作られることはなかったそうです。

 福岡市美術館がリニューアルオープンした2019年。ミュージアムショップが刷新されるタイミングで、土偶に"再起"のチャンスが巡ってきました。

 「これ、マスコットにしたら人気が出ますよ」。ミュージアムショップ店長の井上大輔さんがコブウシの土偶に関心を示したのです。


角がとがり、首の角度も違っていた試作品

 付箋で苦い経験をした後藤さんは、商品化に慎重だったといいます。それでも試作品を隅々までチェックして、気づいた点を細かく指摘。角に丸みを持たせたり、首をまっすぐにしたりと改良を重ねました。「改良を重ねるうちに愛嬌が増していき、『これはける』と確信した」ということです。


「こぶうしくん」のボールチェーンマスコット(税込み880円)

 左右の目の形が違い、目線がずれているのも、「あえて、そういうデザインにした」から。試行錯誤の末、味のあるキャラクターが誕生しました。


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"よしよし"したくなる

 ほかにも、ぬいぐるみやマスキングテープなど、全5種類のグッズを制作。人気は徐々に広がり、関連グッズの販売数はミュージアムショップで最も多いそうです。同じ土偶を収蔵する古代オリエント博物館(東京)でも、こぶうしくんのグッズを販売しているとのことです。


こぶうしくんの商品化に携わった後藤さん(左)と井上さん

 「こぶうし普及係長」を自任する後藤さんは、私費で古美術商からコブウシの土偶を購入するほどの入れ込みよう。「とぼけた目をしていて、思わず"よしよし"したくなります」と満面の笑みです。そして、今年は「丑(うし)年」。さらなる知名度アップを目指しています。


ぬいぐるみ(右)はお尻もチャームポイント

 今後は、こぶうしくんを美術館のブログなどに登場させ、館内展示の案内役に起用することなどを検討しているそうです。後藤さんは「美術館に親しみを持ってもらうきっかけになれば」と、こぶうしくんに期待しています。


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