塾の1階にある書店「とらきつね」って? 鳥羽和久さんに聞く ~「場」編~
語りや音楽にふれ、心に窓がひらく
――日々勉強している場所に、風変わりな大人たちがやってくる?
そうそう。うちの塾を卒業した生徒の中に高校を中退する子もいたので、セーフティーネットになる場をつくろうと2010年から単位制の「航空高校唐人町」も運営しています。彼らにとって塾の勉強だけでは、外の世界からの刺激が足りないと思うようになって。
ただ、大人を怖がる子どもに無理に押し付けたくはないし、彼らの嗅覚で感じるところがあれば近寄ってきてくれたらという気持ちで、刺激物を転がしておこうと。
――刺激物⁉
たとえば、坂口恭平さん(建築家・作家・アーティスト)は存在自体が刺激物。彼がトーク後にサイン会をしながら、参加者の悩みカウンセリングのようなことをしてくれたときもありました。石川直樹さん(写真家)は「高校の時、インドに行ってね」とか、さらっと語ってくれて。
中高生って、学校という限られた社会しか見えないんですよね。身近にいない大人に触れて、「生き方っていろいろあるんだな」と感じるきっかけになればいいなと。
石川さんの旅の話を聞いて2日後に突然、四国へ一人旅した女の子もいました。特に行動は起こさなくても、ここで語りや音楽にふれて、子どもや大人の心が「覚醒」する姿を何度も見てきました。
――家でも学校でもない「第3の居場所」?
うーん。意図したわけじゃなくて。結果的にそう感じて「助けられた」という親子もいますけど、「第3の居場所づくり」をねらうのは貧しい気もして。
たとえば、音楽や詩は誰かを助けようとして存在するわけじゃない。声を出さないとやりきれないから歌うとか、個人の切実な思いから生まれますよね。場も同じで、誰かを助けるためにつくるのではない。どんな居心地の場所になるかは人それぞれのはずです。
会って話すことの効用に気づいた
――コロナ禍でみんな対話に飢えていますね。
直接会って話すことの効用って、確かにあります。SNS上では考え方が全くちがうと感じる人でも、同じその人が目の前でいきいきと話す気持ちのいい人だったら、ずっと友達でいたいなと思う。それって、会って話すことの神秘。ネットだと、考え方が一つちがうだけで相手を切っちゃうこともあるでしょう?
著書を読んで「分かったつもり」になっていた作家でも、会って話すとその人の文章だけでは見えなかった過剰な部分や、自分の考え方との違いが見えます。それが会って話すことの醍醐味ですよね。ノイズみたいなものは、そこに身体がある方が伝わりやすい。
子どもに教えるときもそう。オンライン授業も面白いけど、対面なら言い間違えたときとか、意図せずに出る身振りや周りの反応があって初めて伝わることがある。勉強って、勉強の情報だけ与えるんじゃダメで、一見ムダなこととか余計な情報も必要だなと、この1年で気づきました。
――この場所も、まちの「余白」のようです。今後はどんなことを?
一度関わった人とは、ずっと関わりたい。点で終わる場は持ちたくなくて。ここで何度も対話した人たちの変わっていくところを追って、語り続けたい。やっぱり人間を見たいですね。
鳥羽さんのインタビュー後編<本とモノ編>はこちら
店名 | とらきつね |
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所在地 | 福岡市中央区唐人町1-1-1 |
営業時間 | 土曜・日曜 13:00〜18:00 (GWは4月29日15:00~19:00のみ営業) |
電話 | 092-731-0121 |
公式サイト | 唐人町寺子屋・とらきつね |