まさか!はいつも隣に 「ぼうさい落語」で災害への備えを説く「くるめウス」館長
記事 INDEX
- 知識も笑いも
- くるめウスから
- 伝えなければ
防災に役立つ知識や心構えを、落語を交えて発信する社会人落語家が福岡県久留米市を拠点に活動しています。その人は、同市の筑後川そばに立つ防災学習施設「くるめウス」の館長・川嶋睦己さん(43)。突然の豪雨が増えるシーズンを迎え、「一人ひとりの具体的な行動のきっかけになれば」と願っています。
知識も笑いも
7月1日、くるめウスで開かれた講演会「ぼうさい落語で発見!豪雨への備え」。「福々亭金太郎」の高座名で登壇した川嶋さんは、夫婦間のやりとりなどを盛り込みながら、「率先避難」の大切さを説きました。
妻:「誰かに言われなくても、誰も逃げていなくても避難するのが率先避難よ」
夫:「誰も逃げていないのに逃げるなんて、恥ずかしいよ」
妻:「みんなも逃げる気になるから、大事なの!」
うきは市から訪れた女性(56)は娘夫婦や孫らとの6人暮らし。新しい家族も増えるため、「少しでも防災の知識を増やし、備えを万全にしたい」と参加したそうです。
2時間の講演では、備えておくべき防災グッズなども紹介。女性は「落語を挟んで退屈せずに聞けました。この数年は大雨が多く、被害もひどくなっています。早速、学んだ対策を打っておきたいです」と会場を後にしました。
企画したエフコープ生活協同組合(福岡県篠栗町)によると、参加者はオンラインを含めて約30人。エフコープの講演会で川嶋さんがぼうさい落語を披露するのは昨年に続いて2度目で、好評のため時間を30分延ばしたとのことです。
くるめウスから
川嶋さんは福岡大学の落語研究会出身で、落語歴25年。大学卒業後はJAくるめに勤め、敷地内のデイサービス施設で披露する機会もあって、落語を続けてきました。
2005年にJAを退職。知人のアドバイスで07年から食育の大切さを伝える「食育落語」を始め、小学校のPTAなどの依頼に応じて出演していました。
2008年、くるめウスを運営するNPO法人「筑後川流域連携倶楽部」に転職。筑後川大水害から半世紀の03年に国土交通省が設置した同施設で、川に親しむイベントを開いたり、防災知識を広めたりする中、国交省の水防訓練の一環で15年、ぼうさい落語を初めて披露しました。以来、行政や企業に声を掛けられ、各地で上演しています。
伝えなければ
久留米市は豪雨にたびたび直撃され、川嶋さんの知人にも被災した人がいるといいます。被災者の力になりたいと、2020年に結成された任意団体「くるめ災害支援ネット ハッシュ#」に参加し、昨年は浸水家屋の復旧作業などに携わりました。
「うちが被害に遭うとは」「また大雨に襲われるなんて」。作業中、被災した人が漏らすことばにやるせなさが募り、「伝えなければ」という思いを改めて強くしたという川嶋さん。講演の最後には「『まさか』はいつも隣にいます」と訴えます。
これまでにラジオやケーブルテレビなどにも出演。環境、SDGs、人権など話す内容も広がってきました。「おもしろい落語をつくって、おもしろく演じ、楽しんでいただけたらありがたいです」。防災を軸にしながら、落語と向き合う日々が続きます。