大切な家族の一枚を 北九州の写真ボランティア「muikku」

これまでに約30組の親子を撮影してきた

記事 INDEX

  • かけがえのない日々を記録
  • 小さな笑顔が周囲に広がる
  • 「細く長く続けていきたい」

 「振り返ると、子どもが一番かわいかった頃の写真が一枚もないことに気づき、あぜんとした」――。障害のある人とその家族の写真を撮るボランティア団体「muikku(ムイック)」の活動が注目されている。

かけがえのない日々を記録

 団体をつくったのは北九州市小倉南区の社会福祉士・上原藍さん(40)。自身も、障害のある娘を育てる母親の一人だ。ある日、長男が幼い時の写真はあふれるほどあるのに、娘のものはほとんどないと気づいた。入退院を繰り返す娘の毎日に向き合うことに精いっぱいで、カメラを手にする気持ちの余裕さえなかったと振り返る。


当時は娘の写真を撮る余裕もなかったという上原さん

 娘がろう学校に通っていた頃、難聴児を持つ知り合いの母親から、七五三の撮影を頼まれた。短大で写真を専攻し、フォトグラファーとしての経験もある上原さん。写真をプレゼントすると、思った以上に喜んでくれ、とてもうれしかった。

 「自分にはできなかったけれど、障害を持つ人たちのかけがえのない日々を記録したい」と2020年に有志とムイックを結成し、仲間4人で活動を続けている。


「子育ての中で、同じ思いをしている家族の役に立ちたい」

 撮影の依頼はホームページなどで受けている。「リラックスした雰囲気で、ありのままの姿を残したい」と、事前の準備には特に神経を使う。フラッシュが苦手、大きな声を突然上げる、音に敏感――など子どもが示す反応は様々だ。子どもの呼び名、性格、苦手な事柄、病気のことなどを詳しく聞き、撮影前に理解を深めるという。


撮影のサポートをするメンバーの藤崎真衣さん(左)と

 だから撮影では「無理強いしません。撮れないならその日は潔く諦めます」と上原さん。「私たちとの出会いが不愉快な思い出になるのは嫌。笑顔で終わりたいから」

 縁あって出会った子どもが成長していく記録を撮り続けたいと考えている。「私がおばあちゃんになってピントが合わなくなっても、成人するまで見届けて、撮りますよ」と笑顔を見せる。


advertisement

小さな笑顔が周囲に広がる

 木々が秋の色に染まる11月の休日、北九州市小倉南区の蒲生八幡神社で行われたムイックの撮影に同行した。


娘との初めてのお宮参りを撮影してもらった中牟田さん家族

 撮影を頼んだのは、同区の中牟田敦さん(43)の家族。難病指定を受けた遥陽(はるひ)さん(6)との初めてのお宮参りで、ムイックへの依頼は2度目になる。「写真館では分かってもらえないことや、こちらの気持ちも察してくれるので安心できます」と中牟田さん。前回と同様、準備から当日まで、きめ細かな対応に感激したという。


「無理強いしない。撮れないなら、その日は潔く諦めます」

 緊張からか、はじめは表情がこわばり、カメラにも顔をそむけていた遥陽さん。やさしく語りかけながらレンズを向ける上原さんらの様子に安心したのか、うれしそうに笑顔を振りまくように。その笑顔は周囲の大人たちにも広がり、雨粒を落としていた空は、青空にかわっていた。


笑顔を見せる遥陽さん。周囲にも笑顔が広がった

「細く長く続けていきたい」

 上原さんには忘れられない思い出がある。「成人を迎えた娘を一緒に祝いたい」。耳が不自由な母親からの依頼だった。周囲が何を話しているのか分からず、疎外感を抱いていたという母親。ムイックのメンバーは手話ができ、当日は手話でコミュニケーションを取りながら笑顔の中で撮影が進んだ。「こんなに楽しかったことはないです」と感激する母親の姿に心を揺さぶられ、シャッターを押し続けたという。


「その瞬間しかないのだから、そのままを、ありのままの姿を撮りたい」

 ムイックの活動は1口2000円の寄付で成り立っている。約100枚の写真データと、キャビネ判の写真に台紙を付けて送っているが、「正直なところ運営は赤字です。必要としてくれる家族がいるので、細く長く、できる限り続けていきたい」と話す。


「細く長く、できる限り続けていきたい」。藤崎さん(右)と

 これまでに約30組の親子を撮影してきたムイック。上原さんには、いくつかの目標があるという。その一つは病棟に入院している子どもたちを撮影することだ。

 娘が入院していた時のこと。コロナ禍も影響して病院から出られない中、兄弟一緒の写真が一枚もないまま亡くなる子どもがいた。障害や病気と向き合い、懸命に生きる子どもたち。その日々にある、ささやかな喜びや幸せを収めた写真は、家族や子どもに力を与える一枚になるのではないか――。その手伝いができれば、と思う。


撮影を終えて、神社を後にするムイックの2人



advertisement

この記事をシェアする

  • テアトルアカデミー
  • 読売新聞 購読の申し込み
  • 西部読売育英奨学会 よみいく
  • ささっとーも読める読売新聞オンラインアプリのご紹介
  • 読売旅行 行くばい!よか旅