妹の絵に姉の文章を添えて 双子のアートユニット「プティパ」
井上愛さん(右)が描いた絵に、姉の優さんが文章を添えて作品を生み出す双子のアートユニット「プティパ」
発達障害のある妹が描く絵に、姉が文章を添える双子姉妹のアートユニット「プティパ」が、地元の北九州市八幡西区の白石書店で個展を開いている。互いの好きなことを組み合わせた作品は、それぞれの魅力を引き立て合う。コミュニケーションが苦手という特性に苦しんできた妹は、作品を発表することで自信を取り戻した。2人は「何かに挑戦する人の背中を押せたら」と願っている。
「発達障害」と診断されて…
洞海湾にかかる真っ赤な若戸大橋、火災に見舞われる前の旦過市場、2017年に閉園したスペースワールド――。会場には、井上愛さん(39)が市内の風景を色鉛筆で丁寧に描いたはがきサイズの作品約40点が並ぶ。絵には姉の優さん(39)がつづった「懐かしむ想(おも)いと美味(おい)しい時間が自然と行き交う」、「過去も今も未来をもきっと優しく飛び立てる」といった文章が添えられ、見る人に温かみを感じさせる。
愛さんは幼い頃から、人と接することが苦手だった。優さんと2人で公園に行っても、友達の輪に加わる優さんから離れ、一人で花を摘んだり、虫を探したりした。当時は障害についての情報も少なく、周囲から「おとなしい子」と思われたという。
高校生になると、自分から同級生に話しかけることや、テンポの速い会話についていくことが難しくなった。卒業後、アルバイト先で、上司の抽象的な指示を理解できなかった。接客中に緊張してレジの操作方法を忘れることもあり、「周りができることを、どうして私はできないのか」と落ち込んだ。14年頃、家族の勧めで医療機関を受診し、アスペルガー症候群と診断された。
この障害には、▽抽象的な言葉の理解▽環境の変化への対応――などが難しいという特徴がある。幼い頃から絵を描くことが好きだった愛さんだが、診断を受けた頃は色鉛筆を握る機会も減ったという。
お互いの「好き」を生かして
転機は19年1月。優さんは、家に閉じこもりがちだった愛さんを市内のアクセサリー店に誘い出した。優さんの行きつけで、愛さんの絵に関心を持っていたオーナーの女性に作品を見せると、女性は涙を流しながら「人の心を動かす絵だね」と評価し、店での展示を提案した。認められ、心が晴れたという愛さんはチャレンジすることを決めた。
改修前のJR門司港駅などを描いた10点を展示した。来場者から言葉をかけられ、作品のポストカードも買ってもらい、愛さんは笑顔を取り戻した。優さんは「表情が生き生きしてきた。愛が自分のことを好きになるきっかけになった」と振り返る。
展示をきっかけに、県内外の雑貨店や市民ギャラリーなどで作品展を開催した。優さんは仕事の傍ら、愛さんが苦手とする連絡や打ち合わせを引き受けた。作品を紹介するためのSNSも開設し、愛さんが絵に込めた思いをすくい取り、言葉をつづった。その文章も一緒に飾ってはどうかという声があり、現在のスタイルが生まれた。
愛さんは「優の言葉は絵にぴったりで、なくてはならない」と強調し、優さんは「絵は苦手だが、本が好きで言葉も好き。お互いの好きなことを生かせている」と顔をほころばせる。
19年から「プティパ」で活動。プティパとは、愛さんが高校生の頃に創作した空想のキャラクターで、今も作品に登場する。プティパはフランス語で「小さな一歩」を意味し、優さんは「愛が、一歩を踏み出せるように」との思いも込めた。
「苦手なことは誰にでもある。みんなが好きなことで手をつなぎ、支え合える社会になってほしい」。愛さんと優さんの願いを作品が伝えてくれる。展示は12月21日まで。入場無料。







