「ミリ」の先端に広がる世界 鉛筆をアートにかえる「えんぴつ彫刻家」

直径数ミリの芯を削って作るえんぴつ彫刻

 直径数ミリの鉛筆の芯を細かく彫り刻んだ「鉛筆彫刻」――。鉛筆でアートを描く作家は大勢いるが、鉛筆をアートにかえる作家はどれくらいいるのだろうか。福岡市中央区の「えんぴつ彫刻家」、ひらたそうしさん(37)は、細い芯の先を根気強く削って、かわいらしいカエル、文字や南京錠の造形など多彩な作品を生み出している。


はじめは失敗ばかりだった。作業中は時間の経過を忘れるという

 12年ほど前、海外の作家が鉛筆に彫刻を施す様子をテレビで見て、「自分にもできそう」と試しにやってみた。ところが失敗の繰り返し。「悔しくて、悔しくて。無心で何度も続けているうちに、面白さにはまってしまった」という。これまでに500点以上の作品を手がけてきた。



「登れない山はない」(上)と「小さな秘密」(下)。いずれも5万円なり。欧米など海外からの注文も多い

 自宅アトリエで作品を見せてもらう。肉眼ではほとんど認識できないレベルの細かさ。小さな被写体に適したマクロレンズをカメラに装着してファインダーをのぞくと、人の手によるものとは思えない、精緻(せいち)な世界がそこに広がっていた。


制作は作業療法士の仕事が終わった深夜などに行う

 ひらたさんの本職は作業療法士。えんぴつ彫刻は仕事を終えた深夜などに行う。譲り受けた短い鉛筆には、かんだ跡が残っているものも。「この子は授業が退屈だったのかな、なんて想像しながら削るのも楽しい時間です」とひらたさんは笑った。


小さな作品の表情まで細かく丹念に

 作品をSNSにアップしたところ、「作ってほしい」「売ってほしい」という声が国内外で上がり、本格的に打ち込むようになった。友人にサプライズでプレゼントしたり、企業から社名を彫ったものの依頼を受けたり。価格は3000円程度から。漢字を並べたものや、南京錠を模したものなど手の込んだ作品は5万円程度になるそうだ。


これまでに手がけた作品は500点を超えるという

 ひらたさんは「身近なものでアート作品ができることを知ってほしい」と、福岡県の近辺や東京などで展示イベントやワークショップを行っている。これまで50回ほど開催したという。


「老眼がはじまるのを恐れてます」


 「鉛筆の役割は字を書くこと。鉛筆もそれを望んでいるはず」とひらたさん。職場や学校などで役割を果たした鉛筆を手にとって、新たな命を吹き込んでいる。


役割を終えた鉛筆がアートとしてよみがえる



advertisement

この記事をシェアする