登山者のSOSに空から急行 福岡発の会員制捜索ヘリサービス「ココヘリ」
記事 INDEX
- 年間5500円で得る安心
- 「それ欲しい」から起業
- 着々とサービスを拡充
山登りをする人と、その家族に安心を――。福岡市のベンチャー企業による会員制捜索ヘリサービス「ココヘリ」の利用が広がっています。遭難した際は、登山者が携帯した発信器の電波をたどり、ヘリコプターが現地に急行。「『いってきます』と『おかえりなさい』の間に」をキャッチコピーに、さらなる成長を目指しています。
年間5500円で得る安心
サービスを提供するのは、福岡市中央区赤坂に本社を置く「AUTHENTIC JAPAN(オーセンティック ジャパン)」。サービスの「核」になるのは、自社開発したコンパクトな発信器と受信機です。
登山者が身につける発信器は縦6センチ、横4センチ、厚さ1センチほどのお守りサイズ。920メガ・ヘルツの周波数帯の電波を出し続け、登山者の位置を知らせます。受信機は縦11センチ、横7センチ、厚さ1センチほどで、全国34都道府県の警察・消防のほか、同社がチャーター契約しているヘリ運航会社が導入・運用しています。
遭難の一報を受けた際は、登山届などを基に、チャーターヘリなどに搭載した受信機でルート周辺を確認。最大16キロの範囲まで、GPSより正確に場所を把握できるといいます。現行の発信器はブルートゥースによる通信もでき、100メートル前後の距離ならスマートフォンでも捜せるそうです。
サービス利用に必要なのは、入会金3300円と年会費5500円。リスクへの備えと、サービスに対する期待から、会員は4万5000人を超えています。これまでに対応した実績は200件に迫り、その9割は開始3時間以内に発見できたといいます。ココヘリのウェブサイトでは、救助された利用者のエピソードなども紹介しています。
残念ながら命を落とした場合も、早期発見によって、捜索費用のほか住宅ローンの返済免除手続きなど様々な面で、残された家族の負担軽減につながるといいます。
「それ欲しい」から起業
久我一総社長(44)は福岡市出身。電機大手・パナソニックに勤めていた2011年、社内の技術者たちと交わした会話が起業のきっかけになりました。
「920メガ・ヘルツ帯が一般事業者に割り当てられる」「その周波数を使えば、離れていても場所の把握が可能になる」――。新たに"開放"される電波を使って人を捜す機器のイメージが頭の中で膨らんでいきます。「それ欲しいです。会社、つくりますよ」。身を乗り出し、その場で宣言したそうです。
自身、認知症を発症した祖母をスーパーで見失ったり、幼い子どもの行方が分からなくなったりした経験がありました。この2011年は、東日本大震災が発生した年。津波による行方不明者のことを耳にするたび、「進化するテクノロジーによって、日常でも災害時でも役立つものができないだろうか」とよく考えていたそうです。
翌12年に退社。スピーカーの輸入販売などで資金を工面し、高齢者や子ども、災害、遭難など様々なニーズに対応する捜索サービス「ヒトココ」を14年に始めます。
発信器は約1万円、受信機は約2万円。街中での利用を想定した子どもや高齢者向けは競合もあって苦戦しますが、その中にあって、登山者には月30件ほど売れました。
なんとか販売を伸ばせないかと、購入者200人にアンケートを行うと、率直な意見が寄せられました。「使い勝手はいいけど高い。タダにして」「捜索ヘリを飛ばしてほしい」
無茶だ――と思ったものの、知恵を絞りました。「機器を無料では譲れないが、価格を抑えて貸すことはできる」「ヘリを飛ばせる仲間を見つけよう」。会費制で機器を貸し出し、ヘリ運航会社と契約を結び、16年にサービス名を「ココヘリ」に改めました。
再出発の後、遭難者の発見などで実績を重ね、ココヘリの機器を導入する警察・消防も増えていきました。今では、沖縄を除く全国の広い地域をカバーするようになりました。
着々とサービスを拡充
新たな取り組みも進めています。ブランド力を高めようと、今年3月、福岡市・天神の岩田屋本店に「THE GUARDIAN(ザ ガーディアン)」をオープンしました。
販売するのは25万円の防災セット。「『備える』『命をつなぐ』ってカッコいい」を発信する狙いがあり、7月までに会社経営者ら9人が購入したといいます。
7月1日には日本山岳救助機構合同会社(jRO・ジロー)の買収を公表。jROは遭難者の捜索・救助費用を補填(ほてん)する会員制度を運営しており、会員は約11万人。ココヘリの会員は追加負担なく、jROのサービスも受けられるようになりました。
さらに、来春にはソニーとの協業で、街中を含む新たな捜索サービスをスタートさせます。従来は登山届などを基に発信器を捜索する範囲(最大16キロ)を絞り込む必要がありましたが、端末の内蔵GPSとソニーのIoT技術によって、高齢者や子どもが「どこに行ったか分からない」ケースにも対応できるようになるそうです。
久我社長は、クラウドファンディングの活用も視野に、いつかは自前の捜索・救助ヘリを備え、命を守るサービスをさらに拡充していく考えです。「日本は災害が多発し、山や川が多いハードな環境。ここでサービスを磨けば、海外でも役立つはず」。挑戦はこれからも続きます。