釣り餌・オキアミは福岡発祥! 「ヒロキュー」で歩みを聞いた

独自の商品開発に取り組む(提供:広松久水産)

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  • クジラの代わりに
  • 世界最大の漁場へ
  • 安心安全の商品を

 釣りの撒(ま)き餌などによく使われるオキアミ。これを全国に広めたパイオニアとされるのが、福岡市東区に本社を置く広松久水産(通称・ヒロキュー)です。南極で独自に漁を展開するユニークな企業で、コロナ禍で改めて注目された釣りの人気を支えています。

クジラの代わりに

 東区香椎浜ふ頭にあるヒロキュー営業本部。案内してもらった工場では、従業員がオキアミを大きさで選別したり、加工品のサイズを切りそろえたりしていました。


加工するオキアミを選別する作業。まさに職人技

 屋内の空気は「磯の香りを倍にしたよう」(従業員)です。鮮度維持のため冷凍庫内はマイナス25度に保たれ、ダウンコートを着ていてもかなりのツラさです。ここで作られた餌が、全国各地の釣具店などへ。同社の年商は38億円(2022年)にのぼります。

 創業は1965年。元々は農業を営んでいたという広松繁利社長は、農閑期に兄の仕事を手伝うように。コイ養殖のため池でとれるモエビを売るもので、釣り餌として売れ行きがよく、モエビ販売を事業とするようになったそうです。


オキアミを保管する冷凍庫の中はマイナス25度

 やがて、兄が飼料を仕入れていた国内大手の漁業会社から「オキアミを食用に販売したいが、なかなか売れない」と相談を受けます。同社は南極付近でクジラ漁をしていましたが、漁獲量を規制する動きが強まる中、南極海に膨大に生息するオキアミに着目し、その販路拡大策を探っていたといいます。

 広松社長が「釣り餌にしては」と試してみると魚の食いつきがよく、餌として販売を始めました。82年に前身の会社を設立し、84年には広松社長の祖父の名を冠した現社名「広松久水産」に改めたそうです。


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世界最大の漁場へ

 ただ、国内の漁業大手は10年以上前にトロール船を廃止。ヒロキューはオキアミを調達するため、韓国のトロール船をチャーターし、世界最大のオキアミ漁場とされる南極海で漁を継続しています。


南極海での漁について説明する広松久水産の神代豊彰・問屋販売課長

 今年も、チャーター船が1月末から8月末までの予定で、1万トンを目標にオキアミ漁を実施。ヒロキューの男性社員3人が同乗し、技術指導員として品質管理などを行っています。

 家族と長期間会えず、娯楽も限られる船上生活の苦労はあるものの、日本の釣り愛好家によりよい餌を届けるため、オキアミ確保に奮闘しているそうです。

安心安全の商品を

 ヒロキューでは、オキアミを釣り餌の原料として他社に卸しているほか、1990年頃に誕生したヒット商品「生イキくん」をはじめ、オリジナル商品も多く手がけています。生イキくんを商品化する前は、餌などに加工する原料の販売が中心でした。


生イキくんの開発当時を振り返る三浦さん

 「命がけでオキアミをとってくれる仲間のためにも、(商品で)後れをとるのはおかしい」。同社の生産管理スタッフ、三浦博二さん(74)はかつて、そんな思いで生イキくんの開発に取り組んだといいます。

 試行錯誤の末、氷点下でも凍結を防ぐことができる食品用の成分を見つけ、形くずれせず色みもよい「生イキくん」を開発。同社の看板商品として、ロングセラーを続けています。

 定年で同社をいったん離れた三浦さんですが、開発力などを買われて再入社。近年も、人や環境により優しい原料を使った「生イキくん for PRO」の開発に携わり、後進の育成にも力を注いでいます。


4月に発売した新商品(提供:広松久水産)

 最近は常温で保存できる餌も普及しているそうです。同社は4月6日、オキアミを主原料とする万能餌「ポケベイト」を刷新するとともに、シリーズの新製品を加えて発売しました。「密」が避けられる釣りはコロナ禍で裾野が広がったとされ、生きた虫などが苦手な女性らにも楽しんでほしいと考えています。

 廣松幸雄副社長(59)は「釣り人が喜ぶ餌を供給するのはもちろん、人間が食べてもいいほど『安心安全』にもこだわった商品を届けていきたい」と話します。また、「オキアミは健康食品としても注目されるようになってきた。オキアミを核に、幅を広げた商品づくりを進めたい」と、釣り餌に限らない展開も視野に入れています。


「安心安全な商品を届ける」と、今後の成長を誓う廣松副社長(後列右から2人目)ら



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