昭和レトロな町並み 福岡市・六本松の古民家カフェを訪ねた

古民家を利用した個性豊かな店舗が点在する六本松1丁目のエリア

記事 INDEX

  • 個性的な店が路地に点在
  • 求められる最高の1杯を
  • 温かくて懐かしい空間

 再開発で街の表情が様変わりした福岡市中央区の九州大学六本松キャンパス跡地。福岡市科学館や高層マンションが立つ一画から国道を渡ると、昭和レトロの建物が残るエリアが広がっている。福岡県護国神社の西側に位置する六本松1丁目地区。古い民家やアパートの一室を利用した小さな店が点在し、個性ある街区を形成している。

個性的な店が路地に点在


2階に靴下専門店やレコード店が入るアパート

 猫関連の本を集めた書店や靴下専門店、レコード店、たい焼き店、ユニークなカフェ。狭い路地の所々で、ちょっと気になる店が営業している。


通りを歩いていると、気になる店が現れる


 どんな店なのだろう――。息をひそめるように路地にたたずむ店の中を想像しながら、昭和で時間が止まったかのような住宅街を散策するのも楽しい。


少女の絵が大きく描かれた壁面

 どこか懐かしい雰囲気に浸りながら通りを進むと、存在感をひときわ放つ古い民家が目にとまった。壁面に描かれた絵は、ハスの咲く池にたたずむ舞妓(まいこ)さんだろうか? メニューが記された玄関の扉は全開だ。少し勇気を出して入ってみた。


advertisement

求められる最高の1杯を

 ここは、築60年の古民家に一昨年オープンしたカフェ「プライムコーヒー」。店長の浦治己さん(48)が1人で切り盛りしている。


「はまりやすい性格」と自己分析する浦さん

 壁の絵は、大濠公園でコーヒーを飲む少女をイメージしたもので、開店の1か月後に描かれたそうだ。それまでは周囲の古い民家と見分けがつかず、カフェの存在に気づく人は少なかったが、壁の絵を目にして店に入ってくる人が増えたという。


「最高の一杯を提供したい」

 元はバイクの修理工だった浦さん。友人らにコーヒーをいれると、喜んでくれるのが何よりうれしかったそうだ。「一度はまると、とことん掘り下げる性格」といい、さらにおいしい味を求めて「中古車並みの価格」で本格的な焙煎(ばいせん)機を購入した。そして「こだわるなら徹底的に」とカフェを開いた。


おいしいと思った店に通いづめ、同じ味を出せるまで豆をひいて試行錯誤を重ねた


 「お客さんが求める、最高の一杯を」という思いから、ほとんどの客に声をかけ、どんなコーヒーを飲みたいか尋ねる。コーヒーは、その日の水分値や焙煎の仕方で味が大きく変わるという。「豆は生き物。正解があるようでないのが面白い」と話す。


世界のどの地域のものか、作り手の名は、農薬は――。最高と思える豆をそろえる

 狭い店内には、新たに導入した「外車が買えるくらい」のオランダ製焙煎機など、こだわりの高価な機器や、世界中から選び抜いて取り寄せたコーヒー豆が並ぶ。


「コーヒー教室でも教えてくれなかったわ」。コーヒー談議に花が咲く


 「今日はどんなコーヒーがお勧めですか」。昼下がり、週に1、2回訪れるという近所の女性(68)が顔を見せた。浦さんにあれこれ聞いて、ニカラグア産のフルーティーなコーヒーを注文する。


 「その日に仕入れたお寿司(すし)のネタみたい」。女性は1時間ほど雑談を楽しんだあと、「コーヒーで元気がつきました。帰って家事、頑張ろう」と笑顔で店を後にした。


温かくて懐かしい空間

 ところで、この六本松にはどうして新旧二つの顔があるのだろうか――。幼い頃から六本松に住み、かつて地区会長を務めた榊国博さん(86)に話を聞いた。


散策していると隠れ家的な店が見つかる


 榊さんによると、この一帯は戦後、満州(現・中国東北部)からの引き揚げ者が暮らせるように国と護国神社が土地を提供し、小屋や長屋が並んでいたそうだ。榊さんの家を含めて、六本松1丁目の多くは護国神社からの借地で、借地条件によって中高層の建物を建てられないところも多いという。


ノスタルジックな雰囲気とおしゃれな演出が同居する


 店を新たにオープンするときも、建物の外観を残して内装にだけ手を加えるケースが多い。このため、昔ながらの面影をとどめた下町のような雰囲気と各店の個性が同居し、不思議な空間にひかれて人が集まってくるようだ。

 路地の散策を続けていると、夕食の準備をしているのだろうか、おいしそうな香りとともに親子の楽しげな会話が聞こえてきた。どこか温かく、なんだか懐かしい夕暮れの時間が住宅街に流れていた。


古き良き時代の町並みや路地が残る

 「近くにいたおばあちゃんに話しかけてみて、いいところだと確信しました。よーし、ここで喫茶店をやってみようって思いました」。店を出す場所を選んだ理由を浦さんに尋ねたときに、返ってきた言葉を思い出した。


advertisement

この記事をシェアする