「モノ」より「ヒト・コト」で勝負 博多大丸がPR動画に込めた戦略とは


記事 INDEX

  • 九州は"ドル箱コンテンツ"にあらず!?
  • モノよりヒト・コトを発信する理由とは
  • 本気のフカボリで売り上げアップ

 博多大丸(本社・福岡市)が九州・沖縄をフカボリするプロジェクト「九州深発見」で、ちょっと変わった九州の魅力を紹介するPR動画「DISCOVER KYUSHU(ディスカバー九州)」がじわり人気を集めています。「モノ」を売る百貨店が、地元の「ヒト」や「コト」に注目したシリーズで、YouTubeでは一部の動画が3万を超える再生回数を記録しています。なぜ博多大丸はこのようなPR動画をつくったのでしょうか。担当者に聞きました。


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百貨店だけど「ヒト・コト」戦略

 九州深発見プロジェクトは、博多大丸の開業65周年に合わせ、2018年6月にスタートしました。博多大丸の社員が「九州探検隊」の隊員になり、九州・沖縄各県の魅力を発掘、発信していくオウンドメディアです。地域の知られざる一面を掘り起こして紹介し、九州・沖縄の活性化につなげようと活動しています。


(提供:博多大丸)

個性が光る人材を隊員がリサーチ

 動画では、隊員が見つけてきた福岡県のけん玉少年やノック名人の男性、大分県のタイピング名人の小学生ら、九つの魅力を紹介しました。すると、北九州市の弦楽器工房が製作したミニチュアバイオリンの動画がYouTubeで話題に。老舗百貨店が店頭で扱う「モノ」をPRせずに、地元の「ヒト」や「コト」に光を当てているとして注目され、すべての動画をまとめたロングバージョンもヒットしました。


PR動画「ノックの神様編」より(提供:博多大丸)

 九州探検隊の隊員ナンバー1番で、営業統括部の角田英一さんは動画で取り上げた素材について「知らないことばかりだった」と振り返ります。地元百貨店に長く勤め、一般の人より九州のことは分かっているという自負もあったそうですが、動画のヒットにより「九州の魅力をきちんと発信できていなかった。まだまだ魅力が眠っている」と実感し、プロジェクトを進めていく自信にもなったといいます。


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 博多大丸によると、百貨店にとっては北海道や京都などの物産展が「ドル箱」で、福岡から遠くなるほど物産展の売り上げもよくなる傾向があるそうです。そうした理由もあり、社内には当初、九州・沖縄の掘り起こしには懐疑的な意見もあったそう。しかし動画の成功もあって、九州にはまだ知られていない魅力があふれていることを内外にPRできました。年に2回開催する「九州深発見」フェアでは、期間中の来店者が増えて全体の売り上げもアップしたそうです。


九州探検隊のロゴ(提供:博多大丸)

地元百貨店としての責任感

 プロジェクトでは、博多大丸の経営幹部が九州・沖縄の全119市に出向いて連携を求め、これまでに38市(2019年12月現在)と協定を結びました。協定を結んだ自治体は、年2回の九州深発見のフェアだけでなく、エルガーラ・パサージュ広場で開催する物産フェアの出店料が無料になるといったメリットもあります。


佐賀県唐津市のご当地コスメの魅力を紹介する隊員(提供:博多大丸)

 ネット通販の台頭により、最近では、対面販売を基本とする百貨店業界の足場が揺らいでいます。博多大丸はプロジェクトによって、「モノ」だけでなく九州・沖縄の「ヒト」「コト」を全国に発信するという本気度を示し、地元百貨店としての存在感を高める戦略を打ち出しました。プロジェクトを通じ、博多大丸も改めて「九州・沖縄の魅力」に手応えを感じているようです。


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