歓声ふたたび 香春町の廃校体育館がスケートボード練習場に
記事 INDEX
- 地域の資産を有効利用
- 音を気にせず練習三昧
- いつの日か、世界へ!
地域の子どもが減って廃校となった小学校の体育館が、スケートボードの練習場として生まれ変わり、若者たちが集う場として活気を取り戻している。
地域の資産を有効利用
練習場ができたのは、セメント原料の石灰石が削り取られ、山頂が平らになった香春(かわら)岳がある福岡県香春町の中心部。2021年3月で閉校となった旧勾金(まがりかね)小の体育館に「香春町スケートパーク」として22年10月にオープンした。
計画を進めたのは、地元のまちおこしグループ「香春みらい塾」(野崎誠人塾長)のメンバーたちだ。普段は空き缶拾いや子ども食堂といったボランティア活動などを行っている。
2021年4月に義務教育学校「香春思永館(しえいかん)」が開校したことに伴い、旧勾金小を含む香春町内の全6小中学校が歴史に幕を閉じた。
町の教育委員会によると、1874年に開校した旧勾金小は、地域で最も歴史のある学校の一つだった。駅にも近く、新たな宅地としての利用が予定されているという。
「解体するにしても、旧勾金小は一番最後になる予定で、早くても3、4年後のこと。それまでの間、何とか有効に利用することができないだろうか」。香春みらい塾を設立した、自営業で町議の山下剛さん(43)らは活用法を模索していた。
そんなとき、「スケートボードの練習場が欲しい」という声をたびたび耳にした。東京五輪で注目を集めた一方で、騒音が各地で問題になっているとも聞いていた。
音を気にせず練習三昧
体育館は、夜間の利用にも対応できる照明があり、なにより天候を心配する必要がない。床が木製なのでアスファルトに比べて危険が小さい。ここならば音も気にせず、気兼ねなく滑れるにちがいない――。
廃校の体育館にあるスケボー練習場。「聞いたことはなかったけれど、『ここだったらうまくいく』という手応えはありました」と山下さんは振り返る。
地元の建設業者が、セクションの土台となる資材や廃材を提供してくれた。678平方メートルの広々とした体育館に、みらい塾のメンバーらが4か月ほどかけて、手作りのジャンプ台などを完成させた。予算は100万円ほどで納まったそうだ。
オープンから半年。SNSや口コミでじわじわと人気が広がった。練習場所の確保に困っている愛好者のほか、「体育館の練習場ってどんな所?」と北海道や沖縄から訪れる若者もいる。休日などは、半数が県外からの利用者なのだという。
いつの日か、世界へ!
雨の休日。正午の営業スタートに合わせて、父親の車でやって来たのは北九州市小倉南区の守田丈二君(13)。兄がスケートボードをやっているのを見て2年前、自分も試してみると一気にのめり込んだ。「めっちゃ楽しい!」
平日は学校が終わってから5時間、休日には営業開始から終了までの9時間、夢中になって館内を駆け回っているそうだ。額に汗を光らせて、「滑っている時が一番楽しい」と声を弾ませる。
北九州市八幡東区から父親の上野隆(43)さんに連れられてきたのは、5歳になったばかりの誠也ちゃん。まだ始めて2か月だが、ぶかぶかのヘルメットを着けて、段差を懸命にジャンプして飛び越える。
きっかけはYouTube。たまたま競技の動画を目にした誠也ちゃんが「やってみたい」と強く言うので、ボードを買い与えたのだという。
「ここまで本気で打ち込むとは、思ってもいませんでした」と上野さん。頬を真っ赤にしながら、何度転んでも立ち上がってまた挑もうとする息子の姿を、練習場の片隅から優しく見守っていた。
練習場ができるまで、スケートボードをする子どもを町で見かけることはなかったという。しかし「せっかく地元に立派な施設があるのだから」と、地域のスポーツクラブの活動などで、競技を楽しむ子どもも出てきたそうだ。
小学校跡地に誕生したスケボー練習場。当初は何の施設なのか、あまり理解されていなかったそうだが、「できることなら、このまま残してあげたい」という声も地域で上がり始めているという。
「いつか香春町から、世界へ羽ばたく若者が育ってくれたら」――。山下さんの夢は膨らむ。