福岡市民をざわつかせるサイバー神社 驚きの空間が出現したワケ
記事 INDEX
- 電脳空間が話題に
- 都市化の波に直面
- 憩いの場を目指す
鳥居をくぐると、異世界に吸い込まれてしまいそう――。福岡市中央区の西公園にある中司孫太郎稲荷神社が、“サイバー神社”と呼ばれてSNSで話題になっています。夕暮れ時から参道をライトアップするLEDの光が異彩を放ち、にわかに登場したフォトスポットに若者らが集まってきます。
電脳空間が話題に
神社がある西公園は福岡市の中心部に近く、全体が丘陵地となっています。坂道を上っていくと、東側の斜面にたくさんの鳥居が見えてきます。
午後6時。参道前でカメラを構えていると、階段に沿って並ぶ灯籠が一斉に点灯しました。鳥居には青白い明かりで「奉納」の文字。左右で10基ある灯籠に「狐(きつね)」の文字やイラストが浮かびあがりました。
日が落ちると、朱色の光が煌々(こうこう)と辺りを照らします。暗闇に規則的に並ぶ明かりが織りなす光景はどこか非現実的で近未来を想像させ、まるで電脳空間に迷い込んだかのようです。
ライトアップは毎日午後6時~翌朝5時で、昨年の10月22日から続けています。夜中になってもカップルや友人同士のグループが訪れ、思い思いのポーズで写真撮影を楽しんでいました。
境内ではほかにも、イラストレーターの326(ミツル)さんとアニメ・イラスト作家の谷口崇さんが描いた巨大看板も設置されています。看板は神社がライブペイントを企画した際に制作されたものです。
インスタグラムやツイッターなどで「#サイバー神社」と調べると、「めっちゃ綺麗(きれい)だった」「SF作品に出てきそうな雰囲気」「えもすぎるっ!」といった喜びのコメントがあふれています。
都市化の波に直面
神社の歴史は古く、1834年(天保5年)まで遡るといいます。五穀豊穣(ほうじょう)や商売繁盛などを祈願し、地域の人々に親しまれてきました。「昔は参拝者の行列ができたこともあります」と神社の代表役員・冨永泉さん(53)は話します。
境内には多くの祠(ほこら)などがあります。個人や地域でまつっていたものの管理を引き受けるうちに増え、今では20以上を数えます。マンション建設など周辺の都市化が進み、維持が困難になった祠や社(やしろ)を預かってきましたが、元々の管理者や後継者がいなくなったり、連絡が取れなくなったりしているそうです。
中司孫太郎稲荷神社にも、かつては住み込みの管理人がいましたが、転居してしまったとのこと。その後は冨永さんが可能な範囲で掃除を続けていたものの、雑草が伸びるペースの方が速く、荒れた状態が目立つようになってきたといいます。
冨永さんは「手弁当で続けていくのは大変。しかし、境内をきれいにして多くの人に参拝してもらえるようにしたい」と話します。現在、冨永さんの親族が社務所で日中の留守番を務め、清掃をしたり御朱印やお守りを授与したりしています。
参拝者に好評という御朱印は手作りで、1枚300円から。消しゴムで作った判子をポストカードに押し、神社の名前のほかキツネや季節の花のデザインで彩っています。
憩いの場を目指す
そんな神社が、なぜいきなり”サイバー”に――? 「これほど話題になるとは思ってもみませんでした」と驚きを隠せないのは、神社の整備や運営に協力している堂森英雄さん(44)です。
聞いてみると、ライトアップのきっかけは神社で発見された一枚の古い写真だといいます。新型コロナウイルスの拡大を受け、堂森さんたちは「コロナに負けるな」というメッセージボードを境内に掲げることを企画しました。その準備の際に仲間の一人が見つけた写真に、ネオン管で装飾された鳥居が写っていたのです。
「昔もライトアップしていたのなら、LEDで飾り付けてみよう」と話が進み始めました。「”映え”とは無縁に活動していたんです」と振り返る堂森さん。夜間点灯をスタートしたところ、今年6月、SNSなどの投稿から「サイバー神社がかっこよすぎる」と一気に話題に。若い世代を中心に拡散され、テレビの取材もやってきました。
堂森さんは「たくさんの人が注目してくれている」と手応えをつかみ、「来てくれた人が参道の奥へ進んで、社で手を合わせてくれるように工夫ができないか」と次の構想を練っています。
風雨にさらされた社や鳥居は劣化が激しく、修繕や整備が必要で、クラウドファンディングなどで資金を募ることも検討しています。「神社を持続的に運営できる仕組みをつくり、訪れてくれた人たちの憩いの場にしたい」と堂森さんは話します。