夫婦円満の神様 "意外なもの"をまつる福岡市南区の照天神社
記事 INDEX
- 野多目大池のそばに
- 二股大根に願い込め
- 森と住民に守られて
福岡市南区にある照天神社は、ある“変わったもの“をおまつりし、奉納する習慣があるという。それは二股大根――。おまつりする対象はあまたあれど、どうして大根? それもなぜ二股なのだろうか? さっそく訪ねてみた。
野多目大池のそばに
照天神社は、福岡市内で最大の農業用ため池・野多目大池のそばの小高い丘にある。一帯にはクスノキやスダジイなど市指定の保存樹が26本あり、「鎮守の森」として地元の人たちに親しまれてきた。
宮司の筒井憲昭さん(68)によると、照天神社は様々な神様を誕生させ、仲を取り持ってきたことから、夫婦の神様をおまつりする神社として敬われてきた歴史がある。そうした経緯で、縁結び、夫婦円満のお祈りに訪れる人も多いという。
夫婦和合や子孫繁栄といった意味合いもあり、大黒様にお供えする縁起物としても知られる二股大根。“夫婦”や“繁栄”といったキーワードから、いつしか氏子たちが二股大根を奉納するようになり、神社でもまつられるようになったそうだ。
二股大根に願い込め
神社は70段ほどの急な階段を上った先にある。手を清めるために手水(ちょうず)舎に近づくと、足元にかわいらしい二股大根の装飾を見つけた。筒井さんによると、周囲は土で固められていたが、水がはねた泥で足元を汚さないようにと、氏子たちが石を敷き詰めた際に、玉砂利を使って神社の”シンボル”をデザインしたのだという。
拝殿に足を運ぶと、天井付近に様々な絵馬が並んでいた。ひときわ目立つのは、大きな絵馬に描かれた白い二股大根だ。青果店の店先でも、なかなかお目にかからないが、近くの農家や家庭菜園で収穫されたものが、神社に奉納されることもあるそうだ。
「大きな木々の合間からすっぽりと空が見えるのも、何かに守られているようで神秘的ですね」と、近くに住む会社員の田中ようこさん(50)が笑顔を見せた。
「日々の感謝の気持ちを伝えたい」と、コロナ禍の頃から、ほぼ毎日のように階段を上って参拝に訪れているという。「毎朝7時頃には、近所の人たちが丁寧に掃除をしています。地域に大切にされている神社だなと感じます」
森と住民に守られて
一帯は那珂川の水系に恵まれ、縄文時代末期から稲作が行われていた歴史がある。田園地帯も残り、日差しが穏やかな早朝には、大池の遊歩道を通って神社に参拝するコースが、近隣住民らに人気のようだ。
神社の木々の隙間からは、収穫前の田んぼの先に、車が盛んに行き交う都市高速や国道が見えた。「鎮守の森」の深い緑が街の喧騒(けんそう)をやさしく受け止め、神社を守っているように感じた。