葉画を知ってますか? 定年後も充実の時間「葉っぱに感謝です」
記事 INDEX
- たまたま出会って夢中に
- 葉っぱを集め大切に保存
- 作る喜びと、見せる喜び
「葉画(はが)」をご存じだろうか。3年以上乾燥させた植物の葉などを紙に貼って描く絵画で、知る人ぞ知るアートとして注目されているようだ。その講師になって20年、公民館や小学校の授業で教えながら、1万点以上の作品を手がけた福岡市南区の吉住正隆さん(81)を訪ねた。
たまたま出会って夢中に
吉住さんが葉画と出会ったのは2001年。たまたま立ち寄った物産展の会場で目にしたチラシで、そのアートの存在を知り、「まずは体験を」と講座に参加してみた。
葉画で使うのは、はさみ、のり、筆、ピンセット、そして葉っぱ。葉の形や特徴ある色を生かしながら、「切手を貼る要領」で紙上に配置していく。
「意外に簡単」といい、次々に作品が完成することに喜びを感じるようになったそうだ。仲間とドライブを兼ねて、葉っぱを集めに出かけるのも楽しかった。
水彩画や油絵では意のままに色を選べるが、葉画は植物の葉っぱだけを使い、色彩と形を組み合わせたり、重ねたりして作品を表現する。「絵の具にはない、温かみのある色で描くことができるのが魅力」と吉住さんは話す。想像力を膨らませながら、葉を並べ、重ねていくと、期待した以上の色や構図が完成することもあるという。
葉画の奥深さにのめり込み、いつの間にか福岡市や県の美術展で入賞を重ねる腕前になっていた。
落ち葉を集め、大事に保存管理し、そして作品に向き合う――。充実の日々を過ごす吉住さんだが、葉画と出会うまでの“自分探し”は紆余(うよ)曲折あったそうだ。
定年後、毎日をどう過ごせばいいのか、時間をもてあましていたという吉住さん。「何かしないと」と気持ちが焦り、日本画やダンスの教室に飛び込んでみたものの長く続かない。株式投資や競艇などにも手を延ばしたが、しっくりこなかった。
そんな中で出会ったのが葉画だった。夢中になり、2年後には講師の認定を受けるほどになっていた。
葉っぱを集め大切に保存
葉画の作品はどのような流れで生まれるのだろう――。10月半ば、自宅で個展を開いていた吉住さんに聞いてみた。
例えば、黄色が鮮やかなイチョウの葉。自宅に持ち帰ってすぐに保管作業に移る。防虫処理を施し、新聞紙に挟み、その上から板、さらに重しのコンクリートブロックを置く。はじめの1か月は、新聞紙を2、3日おきに取り替える。「生き物を育てる感じですね」。丁寧に作業を繰り返すと、3年後には深みのある“素材”ができあがる。
落葉後すぐに採取するというモミジは、どんなに鮮やかな赤い色でも、黒に近い赤へと変わる。黄緑色のポプラの葉はグレーに近い白になるそうだ。
驚いたのはヒマワリの新芽。葉の表面の産毛のようなふわふわ感は、歳月を経ても採取時と同じ状態で維持される。
湿気や虫食いを防ぐ作業で気を抜くと、しおれて葉画の素材にならないが、3年間うまく保管できれば、その後は20年たっても当時のままの状態が保たれるという。
太陽が昇る前から毎日のように、近くの山、田んぼのあぜ道、古里の海岸などを散策しながら葉っぱを探してきたという吉住さん。珍しい素材を求めて熊本の阿蘇などにも足を延ばした。
さまざま思い出とともに、これまで集めた葉は200万枚を超えるという。現在も100万枚を自宅に保管し、葉画ファンの求めに応じて、譲ったり販売したりしている。
作る喜びと、見せる喜び
手がけた作品は1万点以上。自信作の一つは、博多祇園山笠を描いたものだという。苦労したのは、総勢40~50人を数える舁(か)き手の迫力をどう表現するか。試行錯誤を重ねた。
はじめは写真を参考にリアルさを追求したが、臨場感がどうしても出ない。葉を貼り、また剥がす。行き着いたのは、貼り絵のように大胆に――。細部にはこだわらず眉毛を外し、顔は目と鼻だけ。感覚を頼りに3枚、4枚と葉を重ねていった。力水を浴びた法被は、白いポプラの葉がよく合った。3か月を費やし、納得の作品が完成した。
葉画という、あまり知られていない世界だからこそ、縛られず自由にチャレンジできる。押し花を楽しんできた女性らが、新たな表現の手法を探す中で葉画に出会い、魅力に引き込まれることも多いそうだ。
「こんなに夢中になれるものがある年寄りは、そうおらんでしょう」。毎日朝から晩まで熱中できることがある幸せを感じるという。
定年後、新たな自分探しの中で、たまたま出会うことができた葉っぱという存在。「作る喜びと、見せる喜びを与えてくれた、そんな葉っぱに感謝ですね」