「博多」ご当地ナンバーを! 福岡市の経済団体が実現へ動く

福岡市の高島市長(右)に「博多」ナンバー実現への協力を求める福岡商工会議所の谷川会頭

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  • 身近で伝統ある地名
  • 合意形成が欠かせず
  • 九州5県に「図柄入り」 

 九州を代表する街の車に「博多」ナンバーを――。福岡市の経済団体が、自動車のナンバープレートに新たな地名表記を認める「ご当地ナンバー制度」に博多の追加を求める運動に乗り出した。博多の歴史は福岡より長く、過去には県都の名を巡って福岡派と博多派が激論を繰り広げたことも。取材を進めると、郷土愛に燃える人々の心意気が見えてきた。

身近で伝統ある地名

 「市民が身近に感じる伝統的な地名『博多』に着目し、福岡ナンバーに並ぶものとして加えることを検討されたい」。福岡市の企業など約2万社でつくる福岡商工会議所の谷川浩道会頭(西日本シティ銀行会長)が10月10日、高島宗一郎市長に提言書を渡した。産学界の有識者らでつくる「歴史・文化を活かしたまちづくり懇談会」が発案したものだ。

 博多の歴史は古い。奈良時代の歴史書「続日本紀」には、現在の博多湾を指す「博多大津」が登場する。一方の福岡は、江戸時代に城を築いた初代藩主の黒田長政が、一族ゆかりの備前国邑久郡福岡(岡山県瀬戸内市)から名を拝借したのが始まりだ。以来、中洲を流れる那珂川を境に商人が暮らす東を博多、西の城下町を福岡と呼ぶように。駅やラーメンは博多、空港やタワーは福岡と、街には二つの名が入り交じる。


博多駅(左)と福岡空港


 共存関係に亀裂が生じたのは明治期だ。市議会史によると、1889年の市制施行で県がいったん福岡市と定めたが、翌年には市議会で博多市に改めるよう求める建議が出されたのだ。紛糾の末に採決で賛否同数となり、福岡派の議長が否決したと伝わる。博多の復権は「博多区」が誕生した1972年の政令市移行まで待つことになる。


 明太子で有名なふくやの会長でもある懇談会の川原正孝座長は「全国的に博多の名はよく知られており、地元民の愛着も強い」とした上で、「博多ナンバーが導入されれば、市全体で郷土愛が育まれるようになり、経済振興にもつながるだろう」と意義を強調する。


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合意形成が欠かせず

 国土交通省によると、福岡県内には「福岡」「北九州」「久留米」「筑豊」の4種類がある。現行制度では、ナンバーを決める地域の最小単位は市町村と決まっていて、自由に選ぶこともできない。仮に福岡市で博多ナンバーが導入された場合、周辺の太宰府市や糸島市などを除き、福岡市内で登録された福岡ナンバーの車は全て切り替え対象となるため、地元の合意形成は欠かせない。

 滋賀県では今年3月、彦根市と甲良町が「彦根」の導入を国交省に申請したが、町民アンケートで反対意見が多数を占め、話は立ち消えになった。彦根市は「町側には『市との合併を迫られるのではないか』といった声もあり、導入は容易ではなかった」と残念がる。


ナンバーの最小単位は市町村


 地元はどう見るか。黒田長政と父の如水をまつる光雲(てるも)神社(福岡市中央区)の町田知音(ともね)宮司は「福岡と博多は歴史的に見ても異なる地域。市内の車が全て博多ナンバーになることに違和感を覚える人も多いのでは」と語る。要望を受けた高島市長も「まずは民間で機運を高めた方がいい」と述べ、静観する構えだ。


 商議所は年明けにも具体的な運動方針を検討する委員会を設立する方針だ。川原座長は「『区単位での導入』や『福岡との選択制』などを含め、実現の可能性を一から探りたい」と話し、町田宮司も「互いに争う歴史は繰り返したくない。ナンバーを選べる仕組みにできればいい」と理解を示す。

 懇談会に加わった九州産業大副学長の千相哲教授(観光学)は「街の風景が変わりゆく中、博多の歴史が徐々に埋もれつつあることに危機感を抱く人は多い」と語り、「提言には、多くの人に博多に関心を持ち続けてほしいという願いも込められている」と明かす。

九州5県に「図柄入り」 

 地域振興などを目的に、国交省が2006年に始めたご当地ナンバー制度。山口県の「下関」や鹿児島県の「奄美」など全国46地域が導入している。



■各地の名物ナンバープレート(画像は国交省提供)​


「下関」 山口県下関市

市を象徴するフグや関門橋、海峡ゆめタワー


「熊本」 熊本県

県のPRキャラクター「くまモン」


「飛鳥」 奈良県明日香村など

キトラ古墳の壁画に描かれた朱雀


「富士山」 山梨県富士吉田市など

葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」


「出雲」 島根県出雲市など

神話に登場する「やまたのおろち」



 既存のナンバーに地元を象徴する風景や名物をデザインした「地方版図柄入りナンバー」も18年に制度化された。九州では福岡と佐賀を除く5県にあり、熊本県のPRキャラクター「くまモン」をあしらったものには5万件超の申し込みがあったという。キトラ古墳壁画の朱雀をモチーフにした奈良県の「飛鳥」や、「富士山」なども知られる。

 一方、フグや関門橋を描いた下関ナンバーは、地域の自動車台数に占める割合がわずか1%ほどと苦戦が続く。下関市は知名度不足も一因とみて、軽自動車税の納付通知書で紹介を始めるなど周知に力を入れる。


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