外の世界へ踏み出す一歩に 福岡県の就労支援バーチャル空間

仮想空間でアバターを介して個別相談ができる(画像はいずれも福岡県提供)

記事 INDEX

  • 気楽に過ごせる居場所に
  • 相談員もアバターで登場
  • リアルの自信につなげる

 「働きたいけど、動き出せない」「対面でのコミュニケーションが苦手」――。福岡県は、引きこもりの人や働くことに不安を持つ人を支援しようと、ネット上のバーチャル(仮想)空間でアバター(分身)を操り、第三者との交流や相談ができる「ふくおかバーチャルさぽーとROOM」を開設しています。自宅にこもりがちな利用者が外の世界とつながり、社会への一歩を踏み出す場所づくりを目指します。

気楽に過ごせる居場所に


パソコンで仮想空間のアバターを操る

 ふくおかバーチャルさぽーとROOMは、仕事に就いていない県内在住の16歳以上が利用できます。パソコンからアクセスし、好きなキャラクターのアバターを選んで行動します。悩みを抱える人同士が語り合える談話スペース「中央サロン」などが常に開放され、交流会も定期的に開かれます。

 「人と話す楽しさを知ってほしい」と県労働政策課の占部真示係長は言います。


いつでも入室できる中央サロン

 アバターの会話は、音声またはテキストによるチャットで可能。中央サロンなどでは、アバター同士のやり取りが周囲にも分かる仕組みで、その内容に関心があれば話の輪に加わることもできます。


中央サロンの外には庭園のような空間が広がる

 サロンの外には庭園も再現されています。季節によって景色が変わり、冬はクリスマス仕様に、春には桜が開花します。「利用者が飽きないよう、定期的に模様替えをしています」と占部係長は話します。


春には花見。仮想空間で季節の移ろいを感じられる


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相談員もアバターで登場

 福岡県内では、「若者サポートステーション」などの公的機関が、対面による相談や就労体験を行っています。しかし、自宅から出ることができず支援が届かない人もいるため、県はさぽーとROOMを2022年度に試験導入しました。


個別やグループでの相談の様子。会話の内容が漏れない専用の空間で行う

 初年度は28人が登録し、計8人の就職・進学などにつながりました。約15年間引きこもっていた男性(40歳代)が行動範囲を徐々に広げ、就職に至ったケースもあるそうです。23年度から本格始動し、現在は69人(2023年12月末時点)が登録しています。

 ここでは、相談員が個別に悩みなどを聞いてくれます。会話の内容が他者に漏れない専用の空間を設け、若者サポートステーションの公認心理師など資格を持つ職員が相談に応じます。職員もアバターになり、親身になって相談に耳を傾けます。

リアルの自信につなげる​

 新しい支援プログラムも加わりました。サポートステーションと連携したスキルアッププログラム、ジョブトレーニングです。


座学が中心のスキルアッププログラム。コミュニケーションなどを学ぶ

スキルアッププログラム

 スキルアッププログラムでは、ビジネスマナーや職場での会話の間の取り方などを学びます。例えば、電話で返答に困ったときに備えて「確認します。少々お待ちください」といった、自分が落ち着くためのフレーズを用意することなどを教わります。


アバターがカウンターに立って接客を体験するジョブトレーニング

ジョブトレーニング

 ジョブトレーニングは、バーチャル空間に再現されたカフェやコンビニ、オフィスなどで、接客やオフィスワークを体験します。来店客への声の掛け方、上司から仕事を頼まれた際の受け答えなど、自分に合う振る舞い方を支援員と一緒に考えます。

スマホ用アプリも登場

 このほか福岡県は、スマートフォンから利用するアプリ「FukuokaVsapo©」を開発し、23年12月から運用を始めました。


スマホのカメラが利用者の顔の動きを認識し、アバターも連動する

 アバターでの相談に特化したアプリで、利用者とアバターの顔の動きが連動する技術により喜怒哀楽を表現できます。パソコンを使うサポートROOMよりも感情が伝わりやすく、相談員がより深く話を聞くときなどはスマホアプリを使います。


アバターでの相談に特化したアプリのチャット画面

 「引きこもって悩んでいる人の支えにバーチャル空間を活用していきたい」と話す占部係長。「人と直接話すのが苦手だったり、怖いと思っていたりする人が、就職や進学の悩みを解決できる場所をつくりたい」



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