北九州市立大の学生らが再生した大正の洋館 門司画廊MoGA

造られて1世紀。北九州市立大の学生らによって再生された洋館「門司画廊MoGA」

記事 INDEX

  • 歴史ある建物を守りたい
  • 毎週土曜にカフェを営業
  • 地域に開かれた場所に!

 北九州市門司区の山裾に100年ほど前に建てられた洋館が5月、北九州市立大の学生らが運営する「門司画廊MoGA」に生まれ変わり、注目されている。

歴史ある建物を守りたい


私設画廊での川原田さん。来館者一人ひとりに丁寧に対応していた (2010年撮影)


 2階建ての洋館は企業の保養所や別荘として使われた後、2002年からは、カボチャをモチーフにした独特の作風で知られる地元の画家・川原田徹さんの私設画廊「カボチャドキヤ国立美術館」として活用されていた。しかし22年に、川原田さんやボランティアスタッフの高齢などを理由に閉館した。


旦過市場でかつて営まれていた大學堂 (2010年撮影)


 そのバトンを引き継いだのが、北九州市立大の学生たちだ。竹川大介教授(人類学)が主宰する「九州フィールドワーク研究会」が小倉北区の旦過たんが市場で運営していた交流スペース「大學だいがく堂」が22年の大火で被災。研究会が、新たな活動の拠点として、洋館の管理運営を担うことになった。


洋館の玄関。企業の保養所などとして使われた


 JR門司港駅から坂道を上って車で5分ほど。閑静な住宅街に残る延べ約200平方メートルの洋館は、1999年には取り壊しが決まっていた。解体工事のための足場が組まれている最中、この歴史ある洋館を守ろうと、ゆかりのある人や地元住民らが立ち上がり、建物の解体中止と保存が実現した経緯がある。


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毎週土曜にカフェを営業


MoGAを運営する北九州市立大のメンバーら


 クラウドファンディングで集めた約150万円で、屋根の補修やキッチンの改修などを行い、オープンにこぎ着けたMoGA。コンセプトは、洋館が造られた当時をヒントにした「大正モダンガール」だ。市立大の学生たち15人ほどが、大學堂での経験も生かして毎週土曜にカフェを開き、その収益や寄付金を運営費に充てている。


古いガラス窓などが洋館の歴史を今に伝える


 窓の意匠や家具などが、大正ロマンを感じさせる洋館。再オープンを知った地元の人たちは「ぜひ、ここで使ってほしい」と、古い机やカーペット、オルガンなどを譲ってくれたそうだ。


来館者に香りを感じてもらおうと、せっけんを手に歩み寄る淺井さん


 取材で訪れた七夕の7月7日は、大學堂設立から16年の記念として「モダンガールとよそほひ展―1920~30年代の洋装とSPレコードコンサート」が開かれた。日本モダンガール協會きょうかい代表の淺井あさいカヨさん(48)が、大正時代初期の化粧具袋や、香りがかすかに残る100年ほど前のせっけんを来館者の間近で披露し、驚きと感嘆の声が漏れた。


地域に開かれた場所に!

 大正にタイムトリップしたかのような館内には、モダンガールたちが身にまとっていた当時最先端の洋服など約50点が壁一面に並んだ。淺井さんが古道具店や骨董こっとう市を回り、20年かけて集めた貴重な品々だ。


洋館内に飾られた1920~30年代の服装


 最も目を引いたのは、貴婦人らが頭に着けたカワセミのヘッドドレス。淺井さんによると、「日本にはおそらく、これしか残っていない」というもので、1羽のカワセミの剥製はくせいが飾り付けられ、ヤマセミの羽根が周囲を彩っている。


カワセミの剥製が飾り付けられたヘッドドレス


 さやかなコンサートも開かれた。大正時代に愛された音楽や、ラジオ中継を録音したレコードを蓄音機で聴く。来館者は100年前の人たちが楽しんだ調べを”追体験”し、往時に思いをはせた。


蓄音機が奏でる調べが館内に流れた


 浴衣姿で接客にあたった市立大3年の古後遥さん(21)は「歴史ある洋館の魅力を生かしながら、アートを楽しむ地域に開かれた場所にできれば」と思いを口にした。


寄贈されたカーペットなどが置かれた2階の一室


 MoGAではこれまで、月替わりのイベントとして、筑豊の炭坑絵師・山本作兵衛の作品展、地元の障害者施設の人たちも参加するマルシェなどを開催してきた。今後は春画の作品展や民族楽器によるコンサートも企画したいという声が仲間たちから上がっているそうだ。


「地域に開かれた場に」



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