大時計がある窓からの眺望 博多駅ビルの「むつか堂」カフェ
記事 INDEX
- 若い女性客らが順番待ち
- 食パンのメニューが人気
- 窓外に広がる街のアート
ずっと気になっていたカフェがある。JR博多駅ビル(福岡市博多区)の商業施設・アミュプラザ博多の5階に、2017年にオープンした「パン屋むつか堂カフェ」だ。駅のシンボルでもある大時計の真裏に位置し、一面ガラス張りの店内からは、博多湾に向かって一直線に延びる大博通りとビル街がよく見え、遠くに志賀島も望める。
若い女性客らが順番待ち
九州の玄関口である博多駅ビルで営業する店舗の中で、最も独創的な空間の一つだろう。“絵になる”店の前を通る度に入ってみたいと思っていたが、若い女性の姿が目立つ順番待ちの列に、おじさん一人で並ぶことに”ためらい”を感じていた。
直径6メートルある大時計の文字盤がガラス窓越しに迫る人気のカフェ。客足が少し落ち着く頃合いなのではと、平日の夕方近くに訪ねてみたが、テーブルはほぼ埋まっていた。店長の近藤ひかるさん(37)に取材を申し込むと、快諾してもらえてホッとする。「『おじさん一人』のお客さまも多いですよ」――。温かい声に背中を押され、日を改めて朝一番で店を訪ねた。
平日の午前10時。開店とほぼ同時に女性客らが店の中に案内され、7人が窓際の”特等席”へ。30分もすると半分以上の席が埋まった。客席から聞こえてくる会話は外国語のようだ。近藤さんによると、来店客の半数は外国人で、その8割は韓国からの旅行客だという。メニューを見ずに注文するリピーターも多いそうだ。
食パンのメニューが人気
「まねできたらいいな、と思わせる食パンを使ったメニューばかり」「どれもハズレなしという感じ」――。SNS上で高評価が目立つパンのラインアップは20種類ほどある。主役はフルーツミックスサンドイッチ(880円)だ。
当日に店で焼いた食パンに、イチゴやキウイ、モモなどの果物を、たっぷりの生クリームで挟んだ一品。特に外国人に人気があるという。韓国は”食パン文化”になじみが薄いそうで、「ほんのりした甘さと、ふわふわした食感が新鮮なようです」と近藤さん。口にしてみると、確かに生地がやさしく繊細で、口当たりが柔らかい。
一日に60本ほど焼く食パンは、夕方までに売り切れるという人気の品。旅行中に立ち寄った外国人が帰国前に再度来店することも多く、購入した食パンをキャリーケースに入れて帰国の途に就くそうだ。
30~40分待ちの日もあるという人気店。オススメの時間帯を聞くと、10時の開店直後なら比較的客が少ない店内で静かな時間を過ごせるとのこと。夕刻が近づくと大きな窓から西日が入り、客の要望でカーテンを閉めることも少なくないという。
「もう一つ」と近藤さんが教えてくれたオススメは、クリスマスシーズンの夕暮れからの時間帯。駅前広場や並木道がイルミネーションで輝く。窓際の席に座ることができれば、博多駅の冬の風物詩を楽しみながら、至高のひとときを過ごせそうだ。
窓外に広がる街のアート
取材を終え、椅子に座って一息つく。大きな時計の文字盤の先に、奥行きのある博多の街並みが広がる。視線を下に向けると、駅前広場を行き交う人の姿が見える。向かいのビルの窓には横断歩道を渡る人たちの姿が鏡のように映っていた。
駅前のパノラマを眺めながら、「そうだ」と気づく。おぼろげな既視感を抱かせる遠い記憶――。20年ほど前に訪ねたフランス・パリのオルセー美術館で、カフェの窓外に広がっていた光景が、むつか堂カフェからの眺望と重なった。
「印象派の殿堂」と称されるセーヌ河畔の美術館は、かつての駅舎を改築したもので、大時計の裏にあるカフェからは、パリの街並みの先に、モンマルトルの丘に立つサクレクール寺院が見えた。
自宅に戻って古い写真を探すと、そのとき撮った数コマを見つけることができた。
時間の経過とともに表情を変えていく街と、大時計が織りなす現代アートのような情景。雨の日、そして日没から夜にかけての時間帯――、博多駅にあるカフェの窓外に広がるキャンバスは、これからどんな作品を楽しませてくれるだろうか。