誰でも自由に「ストリートピアノ」 街角の音色が心を癒やす
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記事 INDEX
- 仕事の帰りに駅で演奏
- それぞれに様々な歴史
- 個性ある一台が各地に
駅や公共施設などの街なかに置かれ、誰でも自由に弾けるストリートピアノが増えている。初心者から上級者まで、音楽を奏でる楽しさが味わえる。
仕事の帰りに駅で演奏
夕暮れが迫る福岡県宗像市のJR赤間駅に、ポロンとピアノが響いた。「愛燦燦(さんさん)」の優しいメロディーに、帰宅を急ぐ人が足を止める。
弾いていたのは同市の保育士・後小路(うしろしょうじ)律子さん(61)。駅での演奏は弾く人も聴く人も癒やすからと、仕事帰りに奏でている。「演奏に涙する人や、一緒に歌う人もいます」とほほえむ。
赤間駅にあるピアノは、ドイツのグロトリアン・シュタインベーク社の1924年製。同社のピアノは「シンギングトーン(歌うような音色)」と表現され、著名な音楽家に愛されてきたという。
定期的に調律を行う宮若市の「たくみ工房」によると、大正時代に東京・銀座に設置されていたとみられ、東京大空襲を逃れた後、山口県下関市の空き家に置かれていたという。
譲り受けた同工房が、当時のままの音を再現しようと、新しい部品は使わず修理。宗像市と協力して2019年9月に約2週間の期間限定で赤間駅に設置したところ、市民から延長を望む声が多数寄せられ、同市の管理のもと常設となった。
工房代表の有馬庸平さん(45)は「関わってきた人々に思いをはせながら演奏してもらえれば」と話す。
それぞれに様々な歴史
国内でストリートピアノが設置されたのは2011年からで、全国の設置場所を紹介するサイト「だれでもピアノ」は現在約600台を掲載する。
福岡県内のピアノのうち9台の設置に関わる北九州市の一般社団法人「ストリートピアノドネーションズ」は、代表の本山晴子さん(51)らが、「経済的な理由などでピアノを所有できない人が、楽器に触れる機会を設けたい」と19年に設立。中古品の寄付を募り、県内外で設置を進めている。
演奏をきっかけに人の交流が生まれ、まちづくりにもつながるとして、街角にピアノを置く地域や団体は増えており、本山さんは「心地よい空間とともに、シェア文化が広がってほしい」と期待する。
<福岡県内の主な設置場所>
▼北九州市 響灘緑地・グリーンパーク=写真、イベント時などには屋外で弾ける=(若松区)、市役所、AIMビル、くらしの製作所TETTE、北九州まなびとESDステーション(小倉北区)、北九州空港(小倉南区)、福岡銀行八幡支店(八幡東区)、JR黒崎駅(八幡西区)▼福岡市 ベイサイドプレイス博多(博多区)、ソラリアプラザ(中央区)▼大牟田市 JR新大牟田駅▼久留米市 JR久留米駅▼柳川市 市民文化会館▼大川市 市文化センター▼行橋市 JR行橋駅▼小郡市 イオン小郡ショッピングセンター▼宗像市 JR赤間駅▼太宰府市 西鉄太宰府駅▼糸島市 JR筑前前原駅▼篠栗町 JR篠栗駅
ピアノの多くは中古品で、様々な歴史が詰まっている。
大牟田市の新大牟田駅のグランドピアノは1977年製造のヤマハ製で、旧市民会館や大牟田文化会館で約40年間、コンサートや発表会などに使われてきた。太宰府市の西鉄太宰府駅には、同市の福岡女子短期大で学生らが弾いたピアノが設置されている。
大川市の市文化センターには、同市で税理士事務所を営む岡崎信一郎さん(80)が自宅のピアノを寄贈。約50年前に父が購入し、妹や娘、孫娘が弾いてきたもので、「今は夫婦2人暮らし。誰かが弾いてくれたらうれしい」と話す。
個性ある一台が各地に
演奏の様子を撮影してSNSに投稿する人も多く、個性的なピアノが好評だ。
柳川市の市民文化会館のピアノは旧市民会館で約50年間使われたもので、傷んだ外観を水色に彩り、ハナショウブも描いた。
小郡市のイオン小郡ショッピングセンターのピアノには猫の絵が描かれている。
福岡市博多区のベイサイドプレイス博多は、大型水槽前に設置。約3000匹の魚が泳ぐ様子を背景に演奏でき、人気の撮影スポットになっている。
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