辛子明太子屋がクラフトチョコレート 福岡・宗像のUMEYAが描く優しすぎる野望
記事 INDEX
- サンフランシスコでチョコとの出会い
- カカオと砂糖だけなのに産地別の味と香り
- シャンパン酵母使用 Bali 75%
辛子明太子メーカーがはじめた本気のクラフトチョコレートが評判だ。福岡県宗像市の「UMEYA BRAINERY(ウメヤブレイナリー)」は、1992年創業の明太子メーカー「うめ屋」から生まれた「Bean to Bar(ビーントゥーバー)」のチョコレート店。明太子屋がなぜクラフトチョコレート事業に参入したのだろうか。
サンフランシスコでチョコとの出会い
Bean to Barでは、カカオ豆の選定から始まるチョコレート製造の全工程を一貫して行う。2000年代のアメリカで発祥し、世界へ広がった。
ウメヤブレイナリーの代表・清永東誉さんがBean to Barに出会ったのは2014年。明太子の商談で訪れたアメリカ・サンフランシスコで、その文化に触れた。
ビジネスを通じた社会問題の解決に関心があったという清永さん。貧困や児童労働など、発展途上国のカカオ農家が抱える問題を付加価値の高いチョコレートを製造・販売することで解決できないかと考えた。
すぐに行動した。カカオ産地のインドネシアやガーナに通い、現地のカカオ農家と交渉を重ねた。ガーナへは飛行機を乗り継いで片道30時間。首都・アクラに降り立ってから、農園までさらに3時間の長旅だった。
「日本人の商慣習はほとんど受け入れてもらえませんでしたね。お国柄を理解し、少しずつ関係を構築しました」。輸入農産物の売買にはリスクがつきもの。清永さんは失敗のリスクを負いながら、粘り強く農家の育成にも取り組んだ。
カカオと砂糖だけなのに産地別の味と香り
2020年1月、辛子明太子のうめ屋の隣に、待望の店舗をオープンした。厳選したカカオ豆は、インドネシアのバリ島とスラウェシ島、ガーナ、メキシコの隣国中米・ベリーズからで、いずれも個性豊かだ。
豆は店で焙炒し、チョコレートになる。この焙炒作業中はチョコレートの甘い香りが店内に広がる。使用するのはカカオ豆と砂糖だけ。その他の添加物はいっさい使わない。
チョコレートはカカオ豆の産地によって、味や香りがまったく異なる。ウメヤのチョコレートだと、スラウェシ産はフルーツのような香りが特徴。ベリーズは白ブドウのような風味が口の中に広がる。
「不思議ですよね。収穫した場所によってこれほど味や香りが異なるなんて」。清永さんはふくよかな"チョコレート腹"をゆらしてうれしそうに語る。
コロナ禍での挑戦
新型コロナウイルスの影響で、海外への渡航が制限され、農家とのやり取りはオンラインのみとなった。しかし、新たな取り組みにも挑戦している。
カカオ豆は収穫後に発酵、乾燥させることで、特有の味や香りが生まれる。今年のバレンタインに向け、一般的な自然発酵に頼らず、シャンパン醸造に使う酵母菌を使って発酵させた豆の生産に取り組んだ。
シャンパン酵母使用 Bali 75%
自然発酵に頼らないことで発酵が均一に進み、豆の品質も一定に保たれるという。少ない労力で高品質の豆ができるため、農家の労働環境が改善され、収入の増加にもつながる。ウメヤのチョコレートは、食べて「おいしい」だけでなく、カカオ農家の「うれしい」が消費者に見える仕組みになっている。
「チョコレートの甘さには人の心を近づけさせてくれる魔法のような効果があると感じます。ウメヤが仕入れた豆を使ったチョコレート作りのワークショップを開きたいです。コロナ禍が収束すれば、もっと宗像への地域貢献もできると思っています。チョコレートを通じて、世界の社会問題だけでなく、地元・宗像も元気にしていきたいです」。清永さんの優しすぎる野望だ。