落語カーのお披露目会を取材したら、思わぬ「人情噺」が待っていた

落語カーの高座に上がる橘家文太さん

記事 INDEX

  • 世界初の走る演芸場
  • 師匠がサプライズで
  • 地元に支えられる

 東京から北九州市へ移住した落語家・橘家文太さんが、トラックの荷台を高座に改修した「落語カー」をお披露目しました。コロナ禍でも演芸に親しめるようにと、文太さんの支援者が屋外型「世界初の走る演芸場」と銘打って製作。お披露目会には師匠の文蔵さんも東京からサプライズで駆けつけ、会場は笑いと人情に包まれました。


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地元有志がひと肌脱いで


絵は北九州市で活動する画家ヨーコ ツネさんが手がけた

 文太さんは二ツ目昇進を機に昨年8月、東京から故郷の北九州市へ移住。九州には常設の寄席がないため、各地の飲食店などに即席の高座をつくって落語を披露してきました。しかし、コロナ禍。人が集まる寄席を開くには苦労も多いそうです。

 すると、文太さんを応援する落語家の三遊亭歌小倉さんら地元有志が「密」を避けられる落語カーを発案。どこへも行けて、野外でも楽しめる演芸場にするため、キッチンカーなどの移動販売車を製作・販売する「ヒートウェーブ」(福岡県遠賀町)がトラックの改造を引き受けました。


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 トラックの荷台には畳が敷かれ、照明や音響設備も完備。製作費は約600万円で、クラウドファンディングによる資金調達を5月末まで実施しています。


後部の扉が開くと高座に早変わり

師匠が選んだ演目は?

 北九州市八幡東区の神社で5日、新型コロナウイルスの感染防止を考慮して、関係者のみを集めてお披露目会が開かれました。準備は万全、文太さんが落語カーに乗り込もうとしたところで、師匠の文蔵さんがサプライズで登場。驚く文太さんを横目に、そのまま高座に上がりました。

 文蔵さんが弟子のために選んだ演目は「夏泥」。落語の世界で泥棒の噺は「客の懐を取り込む」との意味が込められ、縁起が良いとされています。弟子の門出に商売繁盛の験を担いだ師匠の優しさでした。


落語カーの高座に上がる文蔵さん

 「東京には文太のような二ツ目がたくさんいて、少ない出番を取り合っている。それなら寄席のない福岡で勝負してみたらどうだ」と、弟子の移住を後押ししたのが文蔵さん。文太さんからはお披露目会を知らされていなかったにもかかわらず、東京からこの一席のためにやってきました。

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 最後に文太さんが高座に上がり、サプライズもあったお披露目会は大団円で幕を閉じました。

「10年は戻ってこれないな」


左から文蔵さん、文太さん、文吾さん

 お披露目会を終えた文太さんは「師匠には何も伝えてなかったのに、来ていただけて本当にうれしかったです。この落語カーとともに各地を飛び回りたい」と手応えを感じていました。

 文蔵さんは「3年くらい福岡でやって駄目だったら東京に戻ってこさせるつもりだったが、これだけ地元の皆さんが応援してくれてるんだからね。10年は戻ってこれないな」と弟子にさらなる奮起を促しつつ、「移住して半年くらいでここまでやるんだからね」と、予想を上回る弟子の頑張りに目を細めていました。



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