平成から令和へ 福岡市・天神で「時代」を発信してきたイムズが歴史に幕
記事 INDEX
- 異彩を放った商業施設
- 「価値観は残り続ける」
- 新ビル完成は2024年頃?
福岡市・天神の商業施設「イムズ(IMS)」が8月31日、市の再開発事業「天神ビッグバン」に伴って32年の歴史に幕を閉じます。金色の有田焼タイルに覆われた外壁や大きな吹き抜け構造が目を引き、情報や文化の発信基地として「最先端」にこだわり続けました。ともに時代を駆け抜けた関係者は感慨をもって最後の日を迎えます。
<イムズ>
1989年4月開業。名称は「INTER MEDIA STATION」の頭文字からとった。地上14階・地下2階に服飾品店やレストランなど約110のテナントが入居。2019年度の来館者は約650万人。「天神ビッグバン」に伴って建て替えが決まった。
異彩を放った商業施設
「来館者の多くが吹き抜けを見上げ、らせん形のエスカレーターは人でぎっしり埋まったのを今でも覚えています」。大森和香代副館長(60)は、時代が変わった平成元年(1989年)の開業日を懐かしみます。
「新施設の設立に携わりたい」と、ファッション関係の会社から転職し、準備段階からイムズ一筋。「モノを売る施設はたくさんあった。だからこそ、情報や流行を発信することに力を入れてきました」と胸を張ります。
「時代のムーブメントの発信」を掲げ、モノを売る店ばかりではなく雑誌社やラジオ局も入居。開業当初には、市出身のタレント・タモリさんが司会を務めたテレビ番組「笑っていいとも!」の中継も行われました。多目的ホールや自動車のショールームも備えた九州では異色の商業施設でした。
ギャラリーには、発掘したアーティストの作品を飾りました。地下2階から地上8階まで約40メートルの吹き抜けを生かしたイベントを次々と企画して集客し、ピークの1995年度には1892万人が足を運びました。
「価値観は残り続ける」
しかし、開業間もなく訪れたバブル崩壊にはあらがえず、売り上げや来館者数は下降線に。1990年代後半は、天神地区で新規開店や売り場拡大が相次ぎ競争が激化。営業を担当していた大森さんも、荒波を乗り越えるため知恵を絞りました。
「必要なのは、他店とは違う『イムズならでは』の変化だ」。目を付けたのは、じわりと広がり始めていた「ロハス」。健康や自然食品を意識したテナントの誘致に乗り出します。しかし、思うような既存店はなく、地元企業と一から企画。オーガニック食材を使ったレストランを開店しました。「働く女性を応援したくて。イムズだったから、女性ならではの目線で新しいことに挑戦できました」と振り返ります。
平成から令和となり、思いが詰まったイムズとともに、定年の大森さんもキャリアを終えます。「宝物のような場所がなくなるのは寂しいけど、イムズが生み出してきた価値観は残り続ける」と信じています。
新ビル完成は2024年頃?
閉館が近づくイムズには連日、別れを惜しむ市民が訪れました。福岡市西区の女性(54)は「最後の思い出に」と、妹と来館しました。「初めて来た時、珍しい構造に驚きました。私たちの青春でした」
周辺の商業施設も外壁にそれぞれ懸垂幕を掲げ、「次のステージに期待しています!」(ソラリアステージ)、「いつも革新的なコンセプトが大好きでした。」(大丸福岡天神店)と、天神をともに盛り上げたライバル店にメッセージを送ります。
施設を運営する三菱地所(東京)は、2024年頃までの新ビル完成を視野に、規模や内容を詰めることにしています。