八女でビーガン体験のホームステイ 古民家、薪風呂、おいしいご飯が最高にチルい

じゅんこさん(左)とリキャさん

記事 INDEX

  • ビーガン体験に参加しました
  • 完全菜食主義者=ビーガンか?
  • 簡単、楽しく、おいしい生活

 ビーガン。この言葉にどんなイメージを抱くだろうか。「肉や魚だけでなく、卵も牛乳も口にしない変わった人」「行き過ぎた環境保護主義者」。「完全菜食主義」という側面だけが切り取られて急進的なイメージと結びつき、拒否反応を示す人は少なくない。11月中旬、福岡県八女市を拠点にビーガン食の普及に取り組む「LIGHTS Vegan team(ライツ・ビーガン・チーム)」のリキャさん、じゅんこさん夫妻のお宅にホームステイし、ビーガン食を食べてインタビューしてきた。地球や動物だけでなく、人に優しいライフスタイルがそこにはあった。

ビーガンから学びたい

 今回、自らが体調を壊したことをきっかけに菜食に興味を持った。胃カメラによる精密検査を受け、暴飲暴食はもちろん、胃に負担のかかる食事、遅い時間帯の食事を控えるよう医師に諭された。気づけば40歳も目前。若い頃と比べると、病からの回復にも時間がかかるようになった。いやが応でも「健康」を意識せざるを得ない年齢なのだと悟った。

 ライフスタイルの問題として真っ先に思い浮かんだのが「肉の食べ過ぎ」だ。普段から動物性の食品をよく食べている自覚はあった。コロナ禍の自粛生活を理由に、それまではゼロに近かった家庭での飲酒も増えた。

 肉に偏った食生活を改善するため、ベジタリアンやビーガンから学ぶことは多いだろう。そんな軽い気持ちから取材は始まった。


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天神ど真ん中から八女に移住


玄関前につるされていた干し柿

 ライツ・ビーガン・チームはスウェーデン人シェフのリキャさんと日本人のじゅんこさん夫妻が2018年に始めたビーガン食のプロジェクトだ。福岡市内の飲食店で期間限定のレストランを営業したり、各地のイベントに出店したりしてビーガン食を提供・販売してきた。今年5月、それまで住んでいた福岡市・天神から八女市の山間部に引っ越してプロジェクトを続けている。

 「めっちゃ楽しいですね。以前は天神の中心部に住んでいました。ここは庭や畑、周囲に自然があって、音を出すのも気にならない。地域の人たちは優しいし、野菜は新鮮で安い。見たことのない動物や植物もたくさん」。二人はそう語る。

 八女の住まいは築60年ほどの古民家。玄関先には干し柿がつるされていた。「近所の人が柿を切る道具を貸してくれて、皮のむき方や殺菌方法、ひもの結び方まで教えてもらいました」。都会にはないコミュニティーの強さを実感しているという。


畑にある柿の木

夕食は中東料理「ファラフェル」

 夕食は潰した豆に香辛料を混ぜ、丸めて揚げた中東料理「ファラフェル」。これを野菜と一緒にピタパンにサンドし、ソースをかけて食べた。ソースは豆やナスをベースにした4種類。はじめて口にする中東料理だったが、スパイス加減が絶妙だ。「ビーガン食」という"気位"というか、とっつきにくさもない。食べてみて普通に「おいしい」食事だった。特にソースはいずれも絶品で、持って帰りたいと思った。

 畑で採れた野菜も食卓を彩った。驚いたのが、ヒマワリのスプラウト(新芽)だ。食べたところ、クセはない。新芽のサクサクした歯応えがあった。トマトに葉物野菜、いずれもジャキっとしてみずみずしい。


ファラフェルはコロッケをスパイシーにした味だった

完全菜食主義者=ビーガンなのか?

 ビーガンについて正しく理解している人は少ない。肉や魚だけでなく、牛乳、卵などあらゆる動物性食品をとらないというイメージが独り歩きしている。取材するまではベジタリアン(菜食主義)をさらに発展させたのがビーガン(完全菜食主義者)だと考えていた。しかし、この認識は必ずしも正確ではない。


リキャさんのつくるソースがいずれも絶品だった

 二人によれば、「ビーガニズム」を端的に説明すると、可能な限り動物を搾取しない生き方だという。その延長線に、肉や魚、卵、乳製品などを口にしない完全菜食主義的な生活がある。「例えば、植物性のココナツカレーは完全菜食ですが、ココナツの収穫に調教されたサルを使っていたら、それはビーガン食ではありません」。「なるほど」と思うのと同時に、ハードルの高さも感じた。普段の生活において、数ある食品のトレーサビリティー(履歴管理)は不可能で、非現実的に聞こえたからだ。

 じゅんこさんは笑って続けた。「教科書通りのビーガニズムを完璧に実践するのは現実的には無理です。あくまで『可能な限り』という注釈が必要で、弱い立場の動物の自由を尊重して、優しい選択をするというのがビーガニズムの基本になります」。完全菜食主義を実践している人たちを「ビーガン」と単純にひとくくりにできないのはこういった理由からだ。


多くが自家菜園で採れたものだ

 夕食をとりながら、気兼ねない話が続いた。映画や音楽、政治について。家族以外の人とこれほど遅い時間まで語り合ったのはいつ以来だろう。コロナ禍になり、すっかりしなくなっていた。そして、二人の住まいはいまだ薪風呂が現役だった。風呂場の窓から薪が燃える音と香りが届いた。


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面倒くさくないし、難しくない


二人の家の前には棚田が広がる

 翌朝は雲一つない秋晴れだった。そのせいで気温はぐっと冷え込んだ。「八女市 4度」。手元のスマートフォンは告げたが、ここは山間部の集落。体感ではもっと寒い。今季は平年より寒い冬になるという。もしかしたら雪がしっかり積もるかもしれない。そう感じながら、周辺の田園地帯を散策した。


肉のないバーガーだと侮るなかれ


食卓にあがる多くが地元食材だ

 朝食と昼食は3人で玄関先にテーブルを出した。採れたての野菜をベーグルに挟んだ。豆がふんだんに入ったスープは、ハーブやスパイスによる複層的で滋味深い味わい。キッシュはひよこ豆やおから、豆乳などが入っているという。どれも食材がうまく調和して、家庭的でほっこりとした味だった。


なんともフワ、サク食感のキッシュだった

 「ビーガンはそれほど面倒くさくないし、難しくない。多くの人がそれを感じてくれたらうれしい」。リキャさんの言葉だ。

 「ビーガンについて、食べないことをデメリットだと受け取られるケースが多いです。ただ、ビーガニズムの定義は『可能な限り搾取をやめること』。体調や気分に合わせて、自分のできる範囲で簡単に楽しく、おいしくビーガン生活が始められることを知ってほしい」。じゅんこさんは続けた。


 多様な生き方が、少しずつ日本社会に根付きつつあると二人は感じている。最近では八女市内の少年野球チームからケータリングの依頼を受けたり、女性グループから料理教室を開いてほしいという依頼もあったという。交流が生まれ理解が深まることで、互いのライフスタイルを尊重してシェアできるのがいい。

 じゅんこさんは「ビーガンになる以前は私もベジタリアンやビーガンにすごく気を使って接していました。でもビーガンになったからといって、お肉を食べる人に対して悪い感情はないですし、多様性を尊重して垣根なくつきあえています」と言う。


次回のホームステイは来春の予定

 全国にビーガン食を届けるため、二人は通販に挑戦するつもりだ。「もっと地元の食材を使って季節にあった料理をつくりたい。知らない、見たことない食材がたくさんあるから、それらを知っていくのも面白いし、新しいものができそう」

 試験的に行ったホームステイ企画については「次回は来年春かな。今回お試しでやってみて、私たちも楽しかったからまたしたい」とリキャさん。今後、ライツ・ビーガン・チームのウェブサイトで告知するという。


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