博多と北九州は分かり合える? 大学准教授が教える親友になる秘訣とは

「前世は日本人」って数え切れないくらい言われた

 ぶつかり合うことはいいこと。アン先生は言います。

 「日本人の美徳は、遠慮するとか、我慢するとか。あと、忖度ね(笑)。でも、ぶつからなかったら成長できないよ。私は親友と出会う前、同じ価値観の人とばかり交流していた。だから、考えもしなかった。親友とは考え方が違いすぎて、ぶつかって、ケンカして、泣きもするんだけどね」

 互いを理解することは、簡単ではない。特に悩まされたのが宗教の違いだそうです。

 「ずっと悩まされているのが宗教観。ひと言で言うと、キリスト教は一神教で、日本は多神教。キリスト教徒として、神社に参拝できるか、おみこしを担げるか、すごい悩みましたね。私にとってお寺や神社を参拝するのは、自分の神様に浮気している気分。でも親友は『浮気じゃないよ。あいさつだよ』って言うんよ。『浮気』or『あいさつ』。ずっと悩んだよね」

 「無宗教」を公言する日本人も少なくありません。何気ない日本人の言葉の端々には仏教や神道の精神が色濃く表れています。

 「キリスト教では死んだ後、天国で神様とずっと過ごすと言うよね。私もずっとそう思ってたんやけど、ある日本人は『ずっと天国で神様と一緒に過ごすとか嫌だ。早く生まれ変わりたい』って言ったんよね。おそらくアメリカ人に『生まれ変わる』とか話すと、ばかばかしいって言われる。考えたことないから。日本には生まれ変わる思想があるから、『あなたの前世は日本人』って、数え切れないくらい言われた。以前だったら『クリスチャンの私がそれを信じるわけなかろう』って言ったはず。でも、これは最強の褒め言葉だと気づけた。今では素直に感謝できるようになった」


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 さらに、笑い話は続きます。

 「『トイレの神様』という歌があったよね。私にはトイレに神様がいることがどうしても理解できなかった。何で日本にはトイレに神様がいるの。軽く馬鹿にしてた。キリスト教徒にとって、八百万の神様が理解できない。忘れた頃に親友が、『日本の世界観を分かりたいでしょ。歌詞がいいから聞いて』って言ってきて『トイレの神様』を勧めたんよ。初めて歌詞を読んで、吐きそうになった。そのとき、他人の宗教観を批判する権利はないし、馬鹿にすることはできないとすごく反省した。食欲がなくなるくらい」

 自ら反省しつつ、日本人にも求めます。

 「宗教を意識しない日本人は『なんで宗教で悩むの、意味が分からん』『日本の伝統行事で、宗教で結びつけて考えんでもよかろう』とか言っちゃう。互いに理解し合わないと。私もちょっとずつ反省しながら、考えが違う人を理解しようとして徐々にできるようになった。今まで見えてこなかったことが見えてきた。理解しようとする態度が大事よね」


戦争するほど仲は悪くはないよね(笑)

 今ではローカルテレビのコメンテーターの仕事もするようになりました。発展する福岡市と、活力を失っていく北九州市。コメントに悩むこともあるそうです。

 「博多と北九州の関係はそうとう繊細よね。あるテレビ番組が『福岡弁=博多弁』として発信したら、私のSNSのコメント欄が大変なことになった(笑)。北九州にも筑豊にも独特の方言があるからね」

 アン先生は外国人として日本に暮らし、親友とぶつかりながら違いを乗り越えて互いに理解し、信頼し合える関係をつくってきました。

 「乗り越えられない壁はないと思うよ。親友とはめちゃくちゃ大きな壁があるんよ。何回もあきらめようとした。泣いて泣いて、もう無理とも思った。北九州の人がプライドを持って、北九州の方言や文化がいいと思うのは自然。それを持ちつつ、博多の人の考えを理解しようとすることはできると思うんよ。『北九州が好きだから博多は嫌い』とか、そういうのじゃない。私はアメリカ文化が好きだし、キリスト教の信仰を持ちながら、日本の文化や価値観を理解しようとしている」


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 冗談っぽくこんなことも言います。

 「北九州と博多は戦争するほど仲は悪くはないよね(笑)。理解しようとする姿勢があれば戦争はなくなると思う。戦争の原因は自分の考えを相手に押しつけようとすること。相互理解に自分自身を捨て去る必要はない」

 衝突は避けられない。でもその衝突が、互いを理解する上で重要なんだと経験してきました。

 「北九州と博多の人、最初はぶつかると思うよ。サッカーなら、ギラヴァンツ北九州に行くか、アビスパ福岡に行くかとかね。たまには北九州の人がアビスパに行ってもいいやん。自分のプライドは持ちつつ、他人を知ろうとすることに罪悪感を持たなくていい。正しいか、間違っているかではない。もともと違うレンズで世界を見ているだけ」

 アメリカと日本。二つの文化を行ったり来たりしながら生きてきたからこそ、語れる信念があります。

 「人は基本的に自分の考えが正しいと思いがちでしょ。無意識で自分の考えが正しく、相手の考えがおかしいとなりがち。日本人にもあるよね。中国人や韓国人に対しては、特にね。上から目線で批判しているという意識はないんだろうけど、心の中で思っているんじゃないかな。私もそうだったんよね」

 最後に真剣な顔でこう言いました。

 「相手の考えを尊重しながら冷静に話すこと。理解しようとすること。私にとっては親友との関係が土台になっている。共感できないことも多いけど、お互いを尊重している。ぶつかりながらも仲良くなった。こういう考えができれば、人は様々な問題を解決できるはず。他者を理解しようとするのはめんどくさい。関係を絶っちゃう方が楽だけど、残念なことだと思うよ。私は考えが違う人と友達になったおかげで、人生が変わったからね」


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