博多と北九州は分かり合える? 大学准教授が教える親友になる秘訣とは

 「博多と北九州は分かり合えると思うんよね」。北九州市立大学のアン・クレシーニ准教授は訛りの強い言葉でそう語ります。福岡県を牽引するツートップであり、長くライバル関係にもある福岡市と北九州市。多くの市民が感じてきた壁は乗り越えられると言い切ります。アメリカと日本。異なる文化で生きてきた「壁を破る秘訣」とは。


アン・クレシーニさん

北九州市立大学准教授。福岡県宗像市在住。アメリカ・バージニア州出身。言語学者。ブロガーやテレビコメンテーターとしても活躍。著書に『ペットボトルは英語じゃないって知っとうと!?』など。公式ブログ「アンちゃんから見るニッポン」。むなかた応援大使。

アメリカにいるからクレイジーになろうと思って

 大学教員とは思えないパンクないで立ち。髪を染め、耳にはいくつものピアスが光ります。タトゥーも。着ているTシャツには、家族と暮らす「MUNAKATA CITY」(宗像市)の文字。強い福岡訛りで熱っぽく、ときに冷静に、こちらが質問する隙を与えてくれません。

 「パンク? 全然好きじゃない(笑)。Kiroroが大好き。カラオケで歌うから日本語の勉強にもなったよね。この格好になったのは5、6年前。アメリカに単年帰国したとき、イメチェンしたくなった。アメリカにいるから、クレイジーになろうと。髪を染めたり、ピアスを開けたり、タトゥーしたり。やりたい放題。すごくファンキーな格好で日本に帰ってきた。北九大に戻るときは不安もあったけど、大学の偉い人から『髪、似合いますね』って言われたんよ。だから、そのまま」

 アメリカ東部バージニア州の人口7000人ほどの町で生まれ育ったアン先生。そこはとても保守的で、生まれて一度も町を出たことがない人も多いといいます。そんな町から約20年前、彼女は日本にやってきました。北九州市では、「あ、外人だ」と何度も言われましたが、自身にとっても日本人は理解できない不思議な「外人」でした。

 「私は添い寝をすごく批判していた。どうしても理解できなかったんよ。アメリカでは子どもを別室に寝かせ、自分の自由時間を大切にする。周りの日本人にも、そうとう勧めたんよ」

 言葉はどうしても批判的に。「日本よりアメリカの方がいい」。言葉の端々に、そんな本音が見え隠れします。

 「日本は大好きなんだけど、理解できない日本は批判した。『何で子どもと一緒に寝ると。意味分からん』って。日本流は知っていたけど、その価値観や世界観を理解できていなかった」


ここは私のホームじゃないや

 日本は好きだけど理解しがたい。モヤモヤした日々を過ごして母国に一時帰国したとき、アメリカ文化にショックを受けます。

 「その頃の私たち家族は宗像市に引っ越したばかりで、居心地のよさを感じていた。そんな時期にアメリカに行った。アメリカの生活は楽しかったけど、私の居場所じゃないとも思った。母国なのに。カルチャーショックがひどくて2か月くらい泣いたんよ。アメリカの税関を通るとき、職員から『ウェルカムホーム』って言われたんよ。でも職員に『ここは私のホームじゃないや』って言ったんよね」

 アン先生を変えてくれたのは、宗像で出会った一人の女性。彼女は京都で生まれ育ち、宗像に嫁いでいました。言葉だけでなく、食文化や価値観、宗教観、全てが正反対でした。

 「私とは共通点がまったくない。考え方が"純日本人"でまったく違う。だけど、すごく仲良くなった。彼女との交流はすごく楽しいけど、すごく衝突する。私はずっと日本に住んでいるのに、何でこんなに日本人とぶつかるのだろうと思った。日本の文化を分かっていたはずなのにね」


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 変化のきっかけになったのは、一緒に行った京都旅行だったそうです。

 「京都ではお寺や神社に行った。私は楽しんでたはずなんやけど、帰りの車で彼女が『あなたはバリバリのクリスチャンって分かってる。寺や神社に行きたくないのも知ってる。鳥居をくぐるのすら嫌なのも雰囲気で分かる』って。『そんなに仏教や神道が嫌なら、何で京都に来たの』とまでも。でもそれが人生のターニングポイント」

 真面目な顔で、そのときの心情を続けます。

 「私は無意識のうちに日本人の考え方を拒否していた。私は日本に住んで、日本のことが大好きだとずっと思っていた。でも、私が好きなのは、私が理解できて納得できる日本。一方、意味が分からない日本、不可思議な日本には『おかしい。アメリカが正しい』って上から目線だった」

 理解し合うことは難しい。でも、理解することをあきらめなければ、いつかきっと理解できる。そのときの思いは今も変わりません。

 「アメリカと日本の違い。これは『正しい』or『間違っている』ではなく、単純に違うだけ。違うやり方なんよ。京都の事件から、批判する前には立ち止まって考えた。すると自分の考え方も変わってきた。親友とは今でもぶつかるけど、互いを尊重して理解しようと努めている。ぶつかることはすごくいいこと。成長できる」


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