福岡へやって来た是枝監督に新作映画「真実」の撮影エピソードを聞いた

シングルマザーが子育てしながら映画の仕事

――ドヌーブさんと、是枝作品の常連だった樹木希林さんに共通点はありましたか。

 キャリアの重ね方はまるで違う。ドヌーブさんは10代から主役で、60年やってきているから、そういう意味ではずいぶん違うんですけど、毒舌家なのは似ている。毒舌で楽しそうに語ってそれが非常に鋭い。そしてドライなので後を引かない。そういうセンスの良さはすごく似ているのと、作品を俯瞰しながら、自分がどういうお芝居をするのか大局的に捉えてくるタイプの女優さんっていう共通点はあります。そんなに似ているわけはないですよ。 ただ翌日、「ドヌーブがさぁ」ってみんなにしゃべりたくなる。希林さんもそういう人だった。



――今までと違う環境での撮影で新しい発見は。

 働き方が全く違うので、新しいといえばそれが一番新しい。1日8時間、週休2日。毎日、もう少しやりたかった。前半は特に。完投しようと思ってマウンドに立っているのに5回で代えられたっていう感じ。だけどその方がスタッフは本当に楽だから。途中からよく分かってきましたけど、現場にシングルマザーが何人もいて、子育てしながらでも映画の仕事ができるっていう。晩御飯前には撮影が終わるから。 そこから子供を迎えに行って、晩御飯を子供と一緒に食べられるという環境は日本ではありえない。そういうところはやっぱりすごい、学んだ方がいいなと思いました。

――次回作からそのようにしますか。

 そこまで変えるには、ちゃんと予算を取って期間をかけてとか、本当に全然違うんですよねそこが。ギャラの払い方も全く違うし。やっぱりそれは映画の仕事をする人間たちがちゃんと守られている形なので、頑張らなくちゃいけないと思った。


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単純に色分けできないものが折り重なって・・・

――「真実」というタイトルについて。

最初に付けたタイトルが「カトリーヌの真実」。それで2015年にスタートした企画なので、最初から言葉はあったんです。真ん中にね。ただ、娘からみるとただの嘘で、「学校に迎えに行って2人でその日あった出来事を聞きながら帰ってきた」みたいな(ファビエンヌのつくり)話は、もしかすると、母親が娘とそうしたかったことかもしれなくて、それは確かに過去にはなかったから、事実ではないんでしょうけど、そうしたかったという気持ちは嘘ではない。
 虚偽とか真実とかというのは、表面的に見えているものと実は違うものが隠されていて、単純に色分けできないものが折り重なってできているのが人生なのではないか――。そんな感じで作っています。


――「アジア人としてドヌーブを撮る」という意識はありましたか。

 それは全然ないな。彼女にそこの垣根はない。ビノシュは役者としてどう成長できるか常に考えている人だから、自分が面白い、優れているという監督なら、何人だろうと彼女の方からアプローチするタイプだし、ドヌーブさんもフランスで公開される映画を劇場で本当によく見ている。彼女の口から「あれ面白かった。あなた見た?」って言われたのは、(韓国の)イ・チャンドンの「バーニング」と、(中国の)ジャ・ジャンクーの「帰れない二人」という感じで、非常にアジア映画を見ている。アジアとヨーロッパの差は全然ないし、そこは本当に開かれている。一番素晴らしいと感じたところはそこです。


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