コロナにまけず、兄弟でつないだフィルム 映画「中洲のこども」
記事 INDEX
- 2割撮り解散
- 再開を信じて
- 中洲愛が凝縮
九州最大の歓楽街・福岡市中洲地区で成長していく少年を描いた映画「中洲のこども」が上映されている。撮影はコロナ禍で中断し約3年も棚上げにされたが、主演で福岡県出身の古賀迅人(はやと)君(12)の熱意が実り、弟の蒼大(そうた)君(7)も代役を務める兄弟二人三脚で完成にこぎ着けた。劇中には中洲を象徴する博多祇園山笠も登場し、人情味あふれる物語に仕上がった。
2割撮り解散
原作は芥川賞作家、辻仁成さんの小説「真夜中の子供」。戸籍を持たず、学校にも通えずにいる7歳の主人公・蓮司が、中洲の大人たちに支えられ、人の温かさに触れていく――という筋立てだ。辻さんが脚本と監督も担当し、俳優の佐藤浩市さんや世良公則さんらが脇を固めた。
2019年に始まった撮影の大半は中洲で行われ、映画の随所に実際の山笠のシーンが映し出される。当時、迅人君は8歳。蓮司役をオーディションで射止め、俳優としての一歩を踏み出した。
しかし、コロナ禍で中洲の街は一変。撮影は休止に追い込まれ、迅人君の出演シーンを2割ほど撮り終えたところで制作チームは解散してしまった。
再開を信じて
「僕の映画はもう撮れないんですか」。21年の秋、迅人君は別の映画の撮影現場で、福岡を拠点に活動するプロデューサーの相川満寿美さんと出会い、涙ながらに打ち明けた。迅人君は撮影が再開されるのを信じ、台本がぼろぼろになるまで演技の練習を続けていた。
思いに打たれた相川さんは撮影再開に向けて奔走。当初の制作陣と交渉して、撮影済みの映像を使用する許可も得た。だが、成長期を迎えた迅人君は背が伸び、顔つきも以前より大人びていた。代役を探す中で白羽の矢が立ったのが、蒼大君だった。
22年7月、およそ3年ぶりに制作が再開されたが、蒼大君は演技の経験もなく、長時間の撮影で泣き出してしまうことも。自身が演技できない悔しさを胸にしまい、迅人君はカメラの手前で変な顔を見せては弟を笑わせ、励まし続けた。
迅人君は8歳当時の撮影分に加えて、成長した蓮司としても出演。こうしてできあがった映画では、兄弟のリレーで演じた蓮司が中洲の街をたくましく生き抜く様子が、編集によって違和感なく描写された。
中洲愛が凝縮
6月の公開初日、舞台あいさつに臨んだ迅人君は「演技を続けられないのは悔しかったけれど、映画が完成しないのはもっと悔しい。蒼大が続けてくれてよかった」と感謝した。蒼大君が「お兄ちゃんの映画だから頑張ろうと思えた」と笑みを浮かべると、会場からは大きな拍手が送られた。
相川さんは「兄弟だけでなく、中洲を愛する人たちの思いが凝縮された映画になった」と2人の奮闘をたたえた。迅人君は今、俳優として活動を続けることで、支えてくれた共演者や制作チームに恩返ししたいと考えている。
映画は博多区中洲の「中洲大洋映画劇場」で公開中。詳しい上映時間などは同劇場へ。