福岡へやって来た是枝監督に新作映画「真実」の撮影エピソードを聞いた

 「万引き家族」でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを取った是枝裕和監督が、新作映画「真実」のPRで福岡市を訪れ、新聞各社の取材に応じました。フランスで行われた撮影や、主演の大女優カトリーヌ・ドヌーブのエピソードなどを語ってもらいました。(文・構成:若林圭輔、撮影:陶山格之)

ストーリー
 自伝の出版を控える国民的大女優のファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)のもとに、ニューヨークで脚本家をしている娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、テレビ俳優として売れ始めた夫(イーサン・ホーク)と娘(クレモンティーヌ・グルニエ)を連れて里帰りする。自伝の題名は「真実」。リュミールは、事実でない自分のエピソードが書かれていることに気づき、母親にかみつく。わだかまりを抱えたまま、ファビエンヌの撮影現場に同行したリュミールが見たものは――

ドヌーブは映っているだけで映画になっちゃう



是枝裕和監督

1962年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。ドキュメンタリー番組を手掛ける。95年、「幻の光」で監督デビュー。「誰も知らない」(2004年)、「歩いても 歩いても」(08年)、「奇跡」(11年)、「そして父になる」(13年)、「海街diary」(15年)など。

――映画を見て、本当のドヌーブもファビエンヌのようではないかと思えました。

 本人は演技だと言っています。「私はこんなじゃない。こんなことしていたら嫌われる」「私は娘との関係は良好だし、ヒョウ柄のコートにヒョウ柄の靴なんてダサいことしないわ」って。撮影でも「これはやめてくれ」とかは一つもなくて。毒舌っぷりとか、ある種の軽やかさ、 チャーミングに見える彼女が持っている個性みたいなものは、だいぶ作品にもらっていますけど。かなり冷静に、ちょっと古くなり始めた女優さんを客観視しながら、おもしろがって演じてくれていたと思います。ドヌーブは映っているだけで映画になっちゃうんですよね。ずるい(笑)。


[PR]

――過去の対談が今作の制作につながったというビノシュの印象は。

 役作りに時間をかけて、役に入り込むタイプの女優さんで、見事でしたね。現場で気づいたことでいうと、黙っている瞬間が最も雄弁。実家にたどり着いたシーンでは、娘と話をしながらでも目は家を見ていて、 ほんの数秒の間で、ここにすごく思い出したくない記憶があって、これからそれと向き合わなくちゃいけないんだっていう、彼女が覚悟を決めている何かがふっと見えたんですよね。ああ、こういう芝居をするのかと思って、そこから「見ている」シーンを増やしました。シーンの支配をまなざし一つでするのは衝撃的でした。
 あと、「演じるって言うのは嘘じゃない。むしろ真実の側に属している」っていう彼女の言葉。「プロの役者は命がないところに新たな命を吹き込んで、命を生んでいく仕事だ。嘘をつくことじゃない」って言い方をしていて、それは印象に残っているんですよね。


L.Champoussin © 3B-Bunbuku-MiMovies-FR3

――何を描いた作品ですか。

 何を描いた作品か100字でまとめなさいってのは、監督の仕事じゃないと思う。何を描いたか、あんまり考えないんだよね。けど、観客が見終わった後に、少し気持ちが上がると言うか、登場人物たちが見上げるあのパリの秋の空のような、澄んだ清々しい気持ちで歩いて帰ってくれるといいなって。あれだけ深くわだかまりをもった母と娘が そんなに簡単には和解しないだろうけど、何か少し娘の側が一歩成長して終わるような、少し自分と母との関係を捉え直すきっかけを持ってニューヨークに戻るみたいな、そういう着地点を目指しました。


[PR]

この記事をシェアする