「1杯1万円」の至福 500万円のカップで楽しむ絶品コーヒー
記事 INDEX
- VIPルームで優雅なひととき
- 人生の節目に「最高の1杯」
- 「出会いが喜び、続ける力に」
1杯1万円(税抜き)――。福岡県桂川町にある喫茶店「リオ」が提供する“至高のコーヒー“が話題だ。500万円の高級カップで、マスターが厳選したコーヒーをいただく。一体どんな器で、どんな味がするのか、確かめに店を訪ねた。
VIPルームで優雅なひととき
店を切り盛りするのは益川輝己さん(78)。コーヒーとカップ好きが高じて1978年に喫茶店を始めた。店内のガラスケースの中には、益川さんが世界中から集めた1300セットを越える高級カップが所狭しと並ぶ。
そのコーヒーを注文すると、壁一面にアンティークの時計が掛けられ、高級な調度品が置かれた「VIPルーム」に案内される。分不相応な空間に戸惑っていると、豊かな香りと一緒にきらびやかなカップが運ばれてきた。
カップは1840年、英国のビクトリア女王が「世界で最も美しい」と称賛し愛用した英国・ミントン社のもの。淡い緑地に純度90%以上の22金を使い、王宮を模した装飾が施されている。さりげなく置かれた純金製の特注スプーン(30万円)も優雅なカップによく合う。「よそから真似できんごと、最高の品で忘れられない思い出をつくってもらいたい」と、大枚をはたいて購入した。
もちろん中身も器に負けていない。”コーヒーの王様”といわれる「ブルーマウンテンナンバーワン」。希少なジャマイカ産の豆(100グラム2000円)を、益川さんがネルドリップで「心を込めて」いれた逸品だ。
人生の節目に「最高の1杯」
定年退職を迎えた自分へのご褒美、金婚式の記念など人生の節目に注文する人が多いという1万円コーヒー。「最高の器で飲めて貴重な体験になった」という声の一方、「緊張して味はわからんかったばい」との感想も。100歳の祝いに子どもから贈られた母親ら、「最高の1杯」を楽しんだ人は4歳から100歳まで1137人を数える。
「1杯1杯にドラマがある」という益川さん。1万円コーヒーを楽しんだ人の名前と住所が記されたノートは9冊目に入った。
特に記憶に残るのは、結婚記念日に行橋市から訪れた夫婦。500万円と100万円のカップで提供したところ、2人は見つめ合いながら手にした器を合わせ、「乾杯!」。
「カチッ」――。決して”心地よい”とは言えない響きに、「心臓がドキドキした」と益川さん。「もし器が欠けていたら……」と今も忘れられないが、あの時は楽しそうな夫婦の様子をただただ見守るしかなかったという。
以前、シンガポール製のカップ(38万円)を棚から取り出すときに、袖が引っ掛かり、落として割ったことがある。ショックで熱が出て、3日間寝込んだそうだ。
「出会いが喜び、続ける力に」
1万円コーヒーを始めたのは2001年。これまで全国放送のテレビや新聞などでもたびたび紹介されて話題になった。評判を聞きつけて訪れたコーヒーマニアは、国内のみならず中国、アメリカなどにも及ぶという。
オーダーした人には、VIPルームで撮影した記念写真を後日郵送している。ほかにもお土産があり、益川さん自慢のコレクションの中から1万円相当のカップのセットをプレゼントする。
「正直もうけにはなりません。いろんなお客さんと出会い、喜んだり驚いたりする顔を見られるのがうれしいし、店を続ける力になっています」と益川さんは相好を崩した。
「1万円はちょっと……」と二の足を踏む人のためのメニューもある。1300円のブルーマウンテンを注文すると、店内に陳列したカップから自由に選んで1杯を楽しむことができる。
中には底を光に向けると芸者の顔が浮かび上がるものも。江戸時代後期に欧州に輸出された有田焼の器だ。19世紀から21世紀のものまで、益川さんの多彩なコレクションを眺めながら、”ひと味”違うコーヒーブレイクを楽しんでみてはいかがだろうか。
<喫茶 リオ>
所在地:福岡県桂川町土居702
電話:0948-65-3182