KYUSHUを楽しんで! 福岡のニックさんが動画で世界にPR

スマホを片手に各地を巡るニックさん(左)と恵美子さん

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  • 1本で視聴2万回超も
  • フリーペーパーから
  • 「目指すは鶴瓶さん」

 福岡を中心に九州各地の観光情報をYouTubeなどで配信している男性が、福岡県糸島市にいます。カナダ・トロント出身のニック・サーズさん(62)。妻の恵美子さん(49)と2人で各地を訪ねて生配信し、九州と福岡の「今」を国内外に伝えています。

1本で視聴2万回超も

 「Welcome to Kyushu! Welcome to Saga!!」

 3年ぶりに観客を受け入れて佐賀県で11月に開催された熱気球大会・佐賀インターナショナルバルーンフェスタ。初日の同月2日、ニックさんと恵美子さんは現地の様子をYouTubeチャンネル「Kyushu Live(九州ライブ)」で生配信しました。


 英語で「今回は95のバルーンが参加しています」と解説したり、「感動!初めて見た!」という恵美子さんの声が聞こえたり。会場の音楽やアナウンスを含めて臨場感があるのも魅力のようで、視聴回数は2万を超えています。

 チャット欄には「Wow, great view」といった英語のメッセージが数多く寄せられています。「生配信は偶然の出会いなどリアルな雰囲気を伝えられるうえ、編集の手間がかからない。海外ではテレビにつけっぱなしにして、気軽に見てもらっています」とニックさんは話します。

 アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、オランダ、シンガポール、タイ、韓国など各国で親しまれ、チャンネル登録者は国内外で3600人に達しています。九州への旅行や移住の相談を海外の視聴者から「友達感覚で」寄せられることもあるそうです。日本語の字幕を添えた短編も公開し、日本人も楽しめるよう工夫しています。


 9月からは、九州各県や企業などでつくる九州観光機構(福岡市)のYouTube動画「チャンネル九州塾」にも出演。「ニックの九州旅」と銘打ち、九州ライブと連動しながら「外国人の目」を通した各地の魅力などを発信しています。

 宮崎県日南市の城下町・飫肥(おび)を取り上げた回では、石垣のそばの水路で大きなコイを見られたり、弓道を気軽に体験できたりという町歩きの楽しみを紹介。「何に興味があるか、数あるイベントで何を紹介するか。外国人が知りたい情報の選択は、外国人だからできる」と言います。


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フリーペーパーから

 日本に居を構えたのは1985年頃。仏教に興味を持ち、東京の禅寺で学ぼうと1年間だけ滞在する予定だったそうです。日本そのものの印象は薄かったそうですが、禅寺で過ごすうちに「おもしろい」と感じるように。

 「イエス、ノーをはっきり言わない曖昧さは、優しさでもある。白でも黒でもないグレーは私にちょうどいい。出身国のカナダは元祖ダイバーシティともいえる多民族国家で、私自身、異文化を受け入れやすかったのかもしれません」


フリーペーパー「フクオカ・ナウ」(右)と「ナウ・マップ」

 東京で4年、大阪で1年ほど過ごし、90年、就職活動を経て福岡へ。その後、タウン情報を扱う会社に転職し、そこで英語タブロイド誌の編集長を務めましたが、同誌の打ち切りを機に独立。98年12月、月刊フリーペーパー「フクオカ・ナウ」を創刊します。

 フクオカ・ナウは当初、在住外国人らを意識し、英語と日本語の2か国語で表記して無料配布しました。福岡市・天神の飲食店をはじめ、「漢字が読めない外国人にとって助かる情報」を紹介。「外国人が興味を持つものを知りたい」「英語に触れたい」という日本人にも好評で、ホテルや観光案内所、飲食店など約500か所で配り、2019年のラグビー・ワールドカップに伴う特集号は3万部を発行しました。


「ラーメンのいただき方」も紹介するなど情報満載の「フクオカ・ナウ」

 A5判サイズでおおむね32ページ。多いときには70ページほどに膨らみました。カメラマンなどスタッフを雇い、観光地図「ナウ・マップ」も発行して、順調に成長していました。しかし、コロナ禍による訪日外国人(インバウンド)の急減に加え、国内の移動制限も影響し、紙媒体のフクオカ・ナウは20年4月の256号で休刊しました。


恵美子さんとは07年に結婚。以前はIT会社を経営していたが、11年からフクオカ・ナウを一緒に運営

 コロナ禍が長引く中、オンラインでの発信を続けつつ、よりタイムリーに情報を伝えられる動画生配信の可能性を感じるようになりました。21年1月、以前から設けていたYouTubeのアカウントを九州ライブに変更し、動画配信をスタート。フィールドを九州に広げたのは「旅行者に対しては、『福岡』だけでなく広く魅力を伝える方がいい」と考えたためです。

 これまでにライブ配信したのは、福岡を中心に160回以上。「そこ、行ったことがある!」「また行きたい」と、世界の視聴者からのリアルタイムの反響に背中を押されているそうです。思い出深い撮影を尋ねると、ニックさんは「イムズの最後の営業日」、恵美子さんは「雪化粧した舞鶴公園」を挙げました。


「目指すは鶴瓶さん」

 運営会社「フクオカ・ナウ」は創設以来、黒字経営を続けています。協賛や広告収入のほか、九州を取材する海外メディアのサポート、行政・施設の英語での情報発信を請け負うなどして収益を得ているからだそうです。

 訪日外国人の入国制限が緩和され、福岡はもちろん九州、日本でインバウンドは回復傾向にあります。九州ライブを視聴した海外からの反応も、「次に行くときの参考になる」といった声が増えてきたそうです。広告収入の見通しも立ち始め、2020年秋から休止していたナウ・マップは、23年春に再開する予定です。

 九州ライブにも力を注ぎます。「半分はきっちり計画を立てて撮影に行きますが、『決まっていない部分』も大事にしていきたい」とニックさん。たまたま出会った人とのやりとりも「ありのままの九州を届ける」ことになるからです。地域の人々との交流を描くNHKの旅番組を挙げ、「(笑福亭)鶴瓶さんを目指したい」といいます。


「新年も、私たちが好きな九州各地の魅力をタイムリーに発信していきたい」

 海外に向けた情報発信は「『KYUSHU』を使ってほしい」とニックさんは指摘します。「いい意味で、九州はそんなに広くない」。7県それぞれで取り組むより、一体でPRした方が多くの観光素材があるエリアだとアピールできる、という考えからです。

 「九州を好きになってくれる人に来てほしい」「美しい九州を地元の人にも知ってほしい」――。そんな思いを込めて、2人はこれからも、各地を巡ります。



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