一度は目にしたい絶景 「光の道」の季節を迎えた宮地嶽神社
記事 INDEX
- 見られない年もある…
- 思い立ち、ひと足早く
- 手を合わせ先祖に感謝
福岡県福津市の宮地嶽神社で、玄界灘に向かって延びる参道が夕日に照らされる「光の道」が現れる季節を迎えた。
見られない年もある…
年に2回、2月と10月のそれぞれ20日前後に見られる光景。地元では昔から知られていたが、人気アイドルグループ「嵐」が出演するテレビCMが2016年に放映されると、一気に全国区の絶景スポットになった。
新型コロナウイルスの感染を防ぐため、石段の観覧席の数を一時は半分ほどに減らしていたが、今はコロナ禍前と同じ約300席に。以前は若い女性の姿が目立っていたものの、最近では幅広い世代の人たちが全国から、そして海外からもやって来る。
宮地嶽神社は約1700年前に創建された。標高約180メートルの宮地岳の麓にあり、玄界灘に浮かぶ相島を望める。九州を代表する神社の一つで、主に開運や商売繁盛にご利益があるとされる。
神社の風物詩として有名になった「光の道」だが、タイミングさえ合えば見られるとは限らない。神職によると「一度もはっきり見られなかった年もある」そうだ。
せっかく晴れていたのに、夕暮れになって雲が出てくることも珍しくないという。注目を集める事象だけあって、石段から観覧できる無料整理券を入手するのもなかなか大変なようだ。
「光の道・夕陽(ゆうひ)のまつり」(2月18~26日)の期間中、石段の整理券は14時から先着300席で配布している。天候などの条件がよさそうな日には朝早くから多くの人が並ぶため、定刻に配り始める整理券はすぐになくなってしまうという。
ほかに、祈願料5000円で予約制の祈祷(きとう)を受け、参道の階段上部に設けられる特別席から見学することもできる。
思い立ち、ひと足早く
今日なら「光の道」に近い情景を見られるかもしれない――。まだ「夕陽のまつり」が始まっていない2月16日の午後、そう思い立って神社へ向かった。
まつりの前だったこともあり、特に混雑している様子もない。それでも日没が近づいてくると、石段の最上部に人が集まりだした。背伸びをしたり、カップルだろうか女性をおんぶしたり、オレンジ色に染まり始めた空の方角を数十人が見守った。
語学を学ぶため8か月前にフランスから夫婦で来日し、現在は福岡市で暮らすラファエルさん(31)もその一人。インターネットで「光の道」のことを知り、「ぜひ一度来てみたかった。どんな風景が見られるのか楽しみ」と笑顔を見せた。
日が沈む30分前になるとさらに人が増え、その”瞬間”を待つ人たちの背中は石段の下の方にまで延びた。
天候に恵まれたこの日、街並みを照らす陽光は、鳥居によって切り取られ、本殿に続く参道の石畳を黄金色に輝かせていた。
間もなく日没――。「わー、きれい」と、ため息のような小さな声があちらこちらから聞こえる。水平線の少し上にかかる雲に太陽が隠れそうになる。名残を惜しむように、スマートフォンを持つ手が何本も天に突き出された。
この日のためにカメラを新調し、休暇を取って臨んだ福岡市の会社員、松原悠人さん(24)は「いい写真が撮れました。太陽の位置は少しずれてはいるけど、とにかく晴れてよかった」。満足そうに、あかね色に染まる日没後の参道にレンズを向けた。
手を合わせ先祖に感謝
宮地嶽神社によると、「光の道」は昔から”この世とあの世をつなぐ道”といわれているそうだ。西方浄土の思想に基づくもので、「夕日を見ながらご先祖さまに感謝を込めてお祈りするといいですよ」と教えてもらった。
太陽が沈むのは思いのほか速く、取材は終始慌ただしかったが、日没前にふと神職の言葉を思い返した。わずかな時間、静かに手を合わせて夕日に祈った。