鼻紋認証アプリで迷い犬ゼロへ 福岡のベンチャー企業の挑戦
記事 INDEX
- 迷っても大丈夫だワン
- 共同代表の実体験から
- 福岡市も実験を後押し
犬の鼻のしわ「鼻紋(びもん)」をAI(人工知能)で解析して迷い犬ゼロへ――。福岡市中央区のベンチャー企業「S'more(スモア)」が開発した鼻紋認証の無料アプリが広がっています。災害時に犬を同伴できる避難所を検索する機能も加わり、同社は「飼い主とペットが幸せに暮らせる社会に向けて少しでも力になりたい」としています。
迷っても大丈夫だワン
鼻紋認証技術を使う無料アプリ「Nose ID(ノーズ・アイディ)」は、アプリをダウンロードしたスマートフォンで愛犬の鼻をスキャンし、鼻紋と一緒に名前や既往歴、飼い主の情報などを登録。万が一、災害などで離れ離れになっても、犬を見つけた人がスマホで鼻をスキャンして登録された鼻紋と照合すれば、犬を特定できます。
環境省のまとめでは、2022年度に動物愛護管理センターなどで引き取った迷い犬などの数は全国で2万2392匹。このうち飼い主の元に戻れたのは7947匹で、35%ほどにとどまっています。残りは別の飼い主に譲渡されるなどしました。
共同代表の実体験から
アプリ開発のきっかけは、スモア共同代表の韓慶燕(かん・けいえん)さんの経験でした。自宅マンションの火災報知機が鳴り、愛犬を抱きかかえて屋外に出た韓さん。幸い誤報でしたが、リードを付けていない犬が腕の中から飛び出して離れ離れになるのでは――と心配だったそうです。持病がある愛犬は薬が毎日欠かせず、不安はさらに大きくなりました。
「迷い犬が飼い主の元に戻れるように」「戻ってくるまでの間も適切に処置してもらえれば」と考え、スマホで手軽に助け合えるアプリの開発を21年にスタート。犬を識別するために着目したのが、1匹ずつ異なり、一生変わらない鼻紋でした。
クラウドファンディング(CF)で資金調達するなどして実用化し、22年5月にアプリの運用を始めました。鼻紋の登録数が増えるほど、学習を重ねたAIの解析精度が高まるため、当初85%だった認識率は現在98%まで上がっているといいます。
22年6月施行の改正動物愛護管理法で、販売前のペットに飼い主情報を登録するマイクロチップ装着が義務化され、飼育中でも努力義務が盛り込まれました。同社共同代表の澤嶋さつきさんは「『公助』のマイクロチップは最後の砦(とりで)、アプリは公助の手前のコミュニティーで助け合う『共助』の役割を担います」と説明します。
福岡市も実験を後押し
民間企業の先端技術活用による社会問題解決を目指す福岡市は、スモアの取り組みを「実証実験フルサポート事業」に採択して市内での実験を全面的に支援。市動物愛護管理センターや動物病院でアプリ利用を広報し、同センターに収容された飼い主不明の犬の鼻紋スキャンを進めています。
これまでのところ、迷い犬と飼い主をマッチングした実例はありませんが、登録者からは「もしもの時の安心感につながる」といった声が寄せられているそうです。アプリのダウンロード数は当初目標の1万件を超え、現在は約1万7000件を数えます。
アプリはユーザーの声を聞きながらアップデートしています。愛犬を連れて行ける避難所の検索機能に加え、狂犬病ワクチンの接種証明書などの画像を保存できるようにしました。
愛犬の様々なデータを鼻紋で管理し、一緒に外出する際に”鼻パス”が可能になる日がくるかもしれません。澤嶋さんは「アプリがペットの戸籍のような存在になれば、迷い犬をなくし、災害時などにも有効です。人とペットの共存社会の実現につなげていきたい」と話します。