世界最大級の愛を誓う 八女市の日向神峡にある「ハート岩」
記事 INDEX
- 神様もひかれた絶景
- 地元店主の”大発見”
- 「恋人たちの聖地」に
福岡県八女市矢部村にある日向神(ひゅうがみ)峡で、火山岩が浸食されてできた巨大なハート形の岩がカップルたちに人気だ。"世界最大級”とされる「ハート岩」にまつわる話を聞いてきた。
神様もひかれた絶景
長いトンネルを抜けると、山水画のような深山の秘境が広がっている。伝承によると、その昔、宮崎・日向の神様が、この地に神馬で飛んで来て、あまりの景色のすばらしさに時を忘れて過ごしたそうだ。そこから「日向神」の名前がついたという。
この峡谷に1962年、洪水防止や農業用水確保を目的とする日向神ダムが造られた。約16キロにわたるダム湖の周囲に植えられたソメイヨシノは「千本桜」と呼ばれ、県内有数の桜の名所になっている。周辺にはキャンプ場もあり、若者や家族連れがやって来る。
縁結びのパワースポットとして話題のハート岩は、高さ220メートル、幅180メートルと圧巻のスケール。実はこの岩、奥に位置する岩肌が、手前の緑にうまく隠れることで、ハートの形に見える”仕掛け”になっている。
地元店主の”大発見”
地元では元々、大岩壁「正面岩」や、天馬が蹴って大きな穴が開いたと伝えられる「蹴洞(けほぎ)岩」が知られていた。その近くにある岩が、ハート岩と呼ばれるようになったのは15年前にさかのぼる。ダムに面した飲食店「日向神ほんだ」の店主・本田伸幸さん(76)が客と交わした何げない会話がきっかけになったようだ。
2009年のある日、庭先でまき割りをしていた本田さん。ふと対岸に目を向けると、奇岩の一つがハートの形に見えることに気付いた。店を訪れた客に軽い気持ちで、この岩のことを話してみた。窓の外に視線を移した客は「本当だ!」と驚き、口コミで共感が広がっていった。
「恋人たちの聖地」に
当時、地域おこしのアイデアを思案していた地元商工会の若手たち。PRの財源もない中、降ってわいてきたホットな話題。聞きつけたメンバーたちは、さっそくハート岩に飛びついた。
閉校した小学校でチャイムの代わりに使われていたという鐘を譲り受けると、ハート岩が見える蹴洞橋のそばに設置し、「幸せの鐘」として”新名所”を誕生させた。
そうした努力が実り、存在が徐々に知られていくと、いつしか「恋人たちの聖地」と呼ばれるスポットに。看板も置いてPRに力を入れると、県外ナンバーを付けた観光バスのルートになり、アジア各国やヨーロッパからの旅行客も訪れるようになった。
想像を超える大きさゆえか、正面にあるにもかかわらず、「ハート岩はどこ?」と尋ねられることがあるという本田さん。「あれですよ」と指さすと、「あんなに大きいんだ……」と、目を見開く人も少なくないそうだ。