目指せ!福岡から世界ブランド イノシシ革の野球グラブ開発

イノシシ革製野球グラブの商品化に尽力した片山さん

記事 INDEX

  • "厄介者"の革に価値を
  • 開発から販売まで3年
  • 唯一無二の魅力を広く

 スポーツ普及支援事業などに取り組む福岡市の会社が、ちょっと変わった素材で野球用グラブを製作し、販売を始めました。野球グラブは牛革製や合皮製が一般的ですが、農作物を食い荒らすイノシシの革を採用。ドイツの野球リーグで選手と監督を経験した福岡県出身の片山和総(かずさ)さん(31)が監修し、職人が手作りしています。

"厄介者"の革に価値を

 海外では高級素材とされることもあるイノシシ革ですが、国内での評価は決して高くはありません。移動通信設備の設計業務を主力に、スポーツ普及支援事業も行う会社「ツカゼン」(福岡市中央区)は「唯一無二のグラブでイノシシ革に価値をつくる」を新たなミッションに掲げ、ブランド化を目指しています。

 同社と業務委託契約を結んでいる片山さんは「天然素材の有効活用や再利用といった視点ではなく、『希少で優れた天然素材』として広めていきたい」と語ります。


イノシシ革で作った野球グラブ


 片山さんは東福岡高の野球部を経て、帝京大で準硬式野球部に所属しました。卒業後の2016年にドイツへ渡って「野球ブンデスリーガ」でプレー。19年から4シーズンは選手兼任監督を務めましたが、21年はコロナ禍のためドイツへ渡れませんでした。


ドイツでプレーしていた頃の片山さん(本人提供)


 そんな時、害獣として駆除対象になっているイノシシの肉や皮が活用されず、日本国内で大量に廃棄されている実情をSNSなどで目にしました。自分なりに解決策を考える中で「イノシシの革は野球のグラブに向いていそう」と思いつき、調べてみると、欧州や南米では高級手袋の素材に使われていることがわかったそうです。


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開発から販売まで3年

 片山さんはすぐに、イノシシの革を業者から個人で購入。野球グラブの工房に頼み込んで、イノシシ革のグラブを試作しました。実際に使ってみると手に良くなじみ、革の表面に毛穴が多くてグラブの中が蒸れにくいなど、ほれこむような出来栄えでした。この第1号グラブは、今も自身で愛用しているそうです。


グラブ用に加工したイノシシ革(片山さん提供)


 現役を退いた22年から、商品化へ本格的に動き始めます。スポンサーとして、片山さんの現役時代を支えたツカゼン。イノシシ革の野球グラブを広める片山さんの思いに共感し、23年に業務委託契約を交わしました。


グラブ職人が一つずつ手作り


 革の加工業者やグラブ職人の協力を得ながら、試行錯誤が続きました。革にこしや粘りが出るように、なめしの過程でオイルをしっかり含ませるなど工夫を重ね、ついにイノシシ革製の野球グラブの商品化を実現。24年11月から販売を開始しました。


唯一無二の魅力を広く

 この野球グラブには、オオカミの古名に由来する「MAGAMI」というブランド名をつけました。イノシシを捕食するオオカミから着想したそうです。革の色は5種類から選べ、税込み6万6000円。現在は専用サイトでのみ受注販売しています。


「MAGAMI」のPR画像(片山さん提供)


 片山さんは「唯一無二の野球グラブを通してイノシシ革の魅力を広めていきたい。靴やカバンなどの商品開発にも取り組みたい」と次の展開を見据えています。



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