『ザ・マーティン マーティン200年の軌跡とアメリカ音楽の変遷』

マーティンの魅力満載の本が発売

 エルヴィス・プレスリー、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン。この3人の名を聞けば、マーティン・ギターを知らない人でも話の糸口をつかめるだろう。『ザ・マーティン マーティン200年の軌跡とアメリカ音楽の変遷』(須貝重太 著 亜紀書房 税込み3300円)は、アメリカ音楽を象徴するスターたちに愛されてきたブランド、その全軌跡を明らかにした力作である。

「世界最古」の歩みを丁寧に

 マーティンのアメリカでの歴史は1833年、創業者CFマーティンがドイツから家族とともにニューヨークへ渡ったときに幕を開ける。建国から半世紀あまり。工房を兼ねた楽器店として出発し、今日に至るまで世界最古のギターブランドとして生き続けてきた。その歩みを、本書はマーティン博物館所蔵の貴重な写真や資料をふんだんに用いながら紹介している。

 本書を通して一貫しているのは、楽器の来歴や製作の背景を、同時代に活躍したミュージシャンたちの姿と重ねて描いている点だ。エピソードや秘話を織り交ぜることで、登場人物の人間味だけでなく、その時代の音楽的土壌まで生き生きと浮かび上がってくる。


マーティンの歴史を330ページで紹介


 第1章「ヨーロッパ時代のマーティン」にはじまり、「新天地ニューヨークへ」「CFマーティン&カンパニィの設立」「大恐慌下の音楽とマーティン・ギター」「アメリカ音楽の多様化とマーティンを選んだミュージシャンたち」などを経て、終章「マーティンを支えた奇才 ディック・ボークの物語」を迎える。南北戦争とアメリカ大衆音楽の形成といった硬派な文章に加え、巻末には「ギター各部の主な名称」「各年のラスト・シリアル・ナンバー」「年譜」「出典」も収録されており、資料性の高い仕上がりとなっている。


「ギターの歴史はアメリカの歴史」

 グラフィックデザイナーやバンドマンとしても活躍する著者は1976年にマーティンの日本総販売代理店に入社するなど、ギターとともに歩んできた。THE ALFEEの坂崎幸之助氏が「現場の裏事情まで知り尽くした彼にしか書けない渾身の一冊」と推薦文を寄せているように、その蓄積された知見こそ本書の大きな強みである。坂崎氏とマーティンギターをめぐる秘話が読めるのも、見逃せない魅力の一つだ。

 つい先日、英国の伝説的ロックバンド「ピンク・フロイド」のデヴィッド・ギルモアが所有していたフェンダー社製ギターが1455万ドル(約23億2000万円)で落札されたというニュースが駆け巡った。それまでの最高額は、米ロックバンド「ニルヴァーナ」のカート・コバーンが使用したギター「マーティンD-18E」の601万ドルだった。本書は、ギターが投資対象とされる現象にも触れており、「ギターとは単なる道具ではなく、時代の魂を宿した文化的記憶である」ことをあらためて実感させる。


著書とマーティンを手にする須貝氏

 「ギターの歴史はアメリカの歴史である」。本書はこのテーマを、人物と楽器、そして時代を織り交ぜながら丁寧に証明してみせる。ギターが奏でるのは音楽だけではない。その音色は、その時代の空気まで映し出しているようで興味深い。ギターに縁のない人にも、ぜひ手に取ってほしい一冊である。

<プロフィール>
須貝重太(すがい・じゅうた)
 1949年、東京生まれ。10代でバンド活動をはじめ、仲間と音楽専門誌を発行。27歳の時にマーティンの日本総販売代理店に入社し、宣伝や販促、商品企画を担当した。1979年にサンフランシスコに移住し、アメリカの音楽会社で働いて人脈を築き、帰国後はギターのムック本の企画・編集に携わってきた。


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