1000円あれば楽しめる 酒と人情に酔う北九州・福岡の「角打ち」文化
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福岡県内では、北九州を中心に「角打ち」の文化が根付いています。酒屋で量り売りの酒を買って、立ったまま店で味わう。常連客も観光客も一緒になって世間話で盛り上がり、一体感から酒がさらにうまくなる、そんな人情味あふれる空間です。
酒と人情の交差点
酒屋の一角で購入した酒をその場で飲む角打ち。店によっては簡単なおつまみも売っています。レトロな外観、品ぞろえ豊富な日本酒、ボリュームのあるおつまみなど、店それぞれに個性が光ります。
福岡県内で特に盛んなのは北九州市。「北九州角打ち文化研究会」によると、市内では100軒近くの酒屋で角打ちを楽しめるそうです。
研究会の吉田茂人会長は、角打ちの魅力を「安さと、人の交流」と語ります。1000円もあれば酒2杯とおつまみを楽しめ、1人で行っても常連の輪に入れる雰囲気があります。店をはしごする旅行者もおり、市は観光資源の一つとしてPRしています。
異業種の交流が生まれる社交場でもあります。吉田会長は「北九州は人情味がある街。ほかの土地から来た人をすぐに受け入れる土壌があるから、角打ちで初対面の人がいても会話が盛り上がる」と話します。
なぜ北九州で根付いたのか。それは「製鉄の街」として発展したことに関係するといいます。3交代で働く製鉄マンにとって、夜勤明けに酒を飲める場所は貴重です。凝った料理は必要ないから、気軽に安く飲みたい。そんな需要から、酒屋で乾き物をつまみながら一杯ひっかけるスタイルが定着したそうです。
近年は後継者不足などから角打ちを楽しめる店は減っています。2005年に市内で200軒近くあった店は半分ほどになり、新型コロナウイルスが追い打ちをかけています。吉田会長は「角打ち文化を残すためには、とにかく店へ行って飲まないと。1日も早くコロナが収束して、活気を取り戻してほしい」と願っています。
昭和レトロな空間
角打ちの雰囲気はどんなものなのでしょうか。吉田会長おすすめの一軒、北九州市門司区の「魚住酒店」にお邪魔しました。
JR門司港駅近くの路地にある隠れ家的な店は昭和レトロな外観です。ガラス戸の向こうには、色あせたポスターや使い込まれた棚が見え、どこか懐かしい雰囲気を醸し出しています。
この店は、ビールは自分で冷蔵庫から出し、つまみは卓上の乾き物を楽しむスタイル。日によっては、簡単な総菜が無料で提供されることもあるそうです。
注文したのは、店オリジナルの日本酒「魚住」。口に含んだ瞬間は甘みがあり、やや遅れてキレを感じる飲みやすい酒です。サービスの枝豆と一緒にいただきます。
話し相手をしてくれた店主の魚住哲司さんによると、店は1929年の創業と伝えられ、空襲を避けるため1945年に現在地に移りました。港湾の労働者がいつでも飲める場所として、ずっと角打ちを続けてきました。
コロナ禍の前は、仕事帰りの地元客や観光客でにぎわっていたそうです。
価格は、日本酒(200ミリ・リットル)が310~500円、ビール(大瓶)が400円。たしかに、1000円あれば楽しめる設定です。
おすすめを楽しむ
角打ちは福岡市内の酒屋でも楽しめます。そのひとつが、若者に人気の大名地区にある「小谷酒舗」。若者からお年寄りまで、男女を問わず客がやって来ます。
天神地区にも近い店は、昼からにぎわっています。大名には居酒屋が多く、飲み会前の「0次会」や「1.5次会」で利用されることも多いそうです。
特に力を入れているのが日本酒。「あまり知られていないお酒を楽しんでほしい」との思いから、店主の小谷昌弘さんが全国を回って探した銘柄をそろえています。自分の好みを伝えると、小谷さんがおすすめを教えてくれます。
ビールやワインなどもあり、つまみは缶詰やスナック菓子のほか、簡単な総菜も注文できます。小谷さんは「店でいろんなお酒に親しんでほしい」と話しています。