「三つ編みは2本まで」 国際化する教室とアップデートされないブラック校則

インタビューはオンラインで行った

記事 INDEX

  • 「マイノリティーに対してのいじめ」
  • 時代に取り残されるブラック校則
  • 「みんなちがって、みんないい」社会に向けて

 「三つ編み禁じのブラック校則は人権侵害です。みんなの髪は同じじゃない」。北九州市立大学のアン・クレシーニ准教授が投稿したツイートが注目を集めている。投稿には黒人を親に持つ女子中学生の後ろ姿が写っている。「日本人」を前提にした校則は、バックグラウンドが異なる多様な生徒が学校に通っていることを想定しておらず、"国際化する教室"の現実に追いついていない。

「マイノリティーに対してのいじめ」

 クレシーニ准教授が投稿した写真には、女子生徒が髪を細かく三つ編みした後ろ姿が写っている。女子生徒は教員から校則違反を指摘されたという。「彼女は黒人のハーフで、髪を傷めないために三つ編みにしている。話し合いの結果、三つ編みは2本まで許可され、週1回は4本まではOKと言われたそう」

 「黒人の髪質を知らないから、こういった指摘をするのだと思う。傷みやすい髪質だから、三つ編みをして髪を傷めないようにしているだけ」。クレシーニ准教授は学校の対応を差別的だと批判する。

 この投稿には、「マイノリティーに対してのいじめ」「髪にやさしい、そのことをつい先日知ったばかり。道理がとおる学校現場であってほしい」「三つ編み禁止っておっしゃっている先生は、こんな違いがあるなんて全く知らないのかも」といったコメントが寄せられた。

 「多くの日本人が『ブラック校則』で不快な思いをした経験があり、意味が分からないと思っているからツイートに共感したのだろう」とクレシーニ准教授は語る。

 このインタビュー取材の後、学校から女子生徒の保護者に連絡があり、三つ編みの制限をなくすことが伝えられたという。多様性を巡る課題の存在を理解し、学校側が歩み寄ったことについて、保護者は「想像力を広げることの必要性について、気づいていただけたらありがたい」と話している。

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文科省はブラック校則の見直しを要請

 校則とは何か。そもそも校則について定める法令は存在しない。文部科学省は教員向けの生徒指導の手引書で、校長に校則制定の権限を与え、社会通念に照らして合理的な範囲内で「児童生徒の行動に一定の制限を課すことができる」と位置づけている。

 一方、社会が多様性を求めるなか、人権や人格を否定するような不合理な「ブラック校則」が社会問題化している。

 昨年、福岡県弁護士会が福岡市内すべての市立中学校の校則を調査したところ、8割の学校で下着の色を指定されていることが分かった。生徒や保護者へのアンケートでは「廊下で一列に並ばされ、シャツの胸を開けて教師が下着をチェックする」「男子もいる体育館で教師から下着の色をチェックされる」「違反した下着を脱がせる」といった回答もあった。県弁護士会は今年2月、文科省や福岡県教育委員会などへ「中学校校則の見直しを求める意見書」を提出した。

福岡県弁護士会が公表した校則に関する調査報告書はこちら

 文科省はブラック校則への社会の関心の高まりを受け、各都道府県教育委員会などに社会常識や時代の変化を踏まえた見直しの検討を要請。校則の教育的必要性を認めつつも、「校則の内容は児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければならない」と、規則にとらわれ、守らせるのみの指導に陥らないよう注意を促した。

 また、児童生徒が話し合う機会を設けたり、PTAへのアンケートを行ったりするなど、子どもたちや保護者を交えた校則の見直し事例を紹介するなどし、児童生徒の主体性を育む指導を求めた。

 学校の校則や指導を巡っては裁判や事件も起きている。大阪府立高校に通っていた女性が茶髪を黒く染めるよう学校に強要されたなどとして府に損害賠償を求めた裁判では、大阪地裁が2月、学校の頭髪指導の違法性を否定する判決を出した。女性側は大阪高裁に控訴している。

 また、1990年には神戸市の県立高校で、教諭の閉めた扉と柱に女子生徒が挟まれて死亡する事件が起き、行き過ぎた指導が見直されるきかっけになった。

時代に取り残されるブラック校則

 法務省によると、日本に暮らす在留外国人は2019年末現在、全国で約293万人。20歳未満に限っても約37万人いる。福岡県は全国で9番目に多い約8万3000人が暮らし、20歳未満は約9000人いる。

 三つ編みを禁止した学校の対応について、クレシーニ准教授は「正直、ばかばかしいと思う。ルールがないと社会も学校もごちゃごちゃになるから、校則そのものに反対はしない。でも、多様性を認めないような校則は廃止すべきだ。今回のケースは明らかな人種差別ではないかもしれないが、この校則は日本人以外の生徒が学校にいることを前提にしていない」と指摘。教育現場の国際化に校則が追いついていない。

 「日本に20年以上住んで、明らかな差別を感じたことはほとんどない。でも、確定申告をしたら名前が長すぎてデータ入力ができないとか、クレジットカードや銀行口座は名字と名前の登録順番がまちまちで何度も審査に落ちたとか、差別とまでは言えないが、日本人しかいない前提で社会が動いていて、暮らしにくさも感じる。オリンピックでも明らかになったが、見えにくい差別はたくさんある」

 明確な差別ではないとクレシーニ准教授は言う。しかし、「知らなかった」「悪気はなかった」で済まされることなのだろうか。

 「こういう話をすると『日本は島国だから』という言い訳を聞く。21世紀の今、島国は言い訳にならない。なぜ黒人のハーフは三つ編みができないのか。校長が多様性を認めれば簡単に解決できるのに、それができないことが不思議だ」

 「黒人の髪質を理解している日本人はほとんどいないだろう。知識がないと差別につながる。『悪気はなかった』は言い訳にはならない。調べられるし、知るべきだ。日本に暮らす外国人は増えている。日本の『多様性』は曖昧。ジェンダーやLGBTといったマイノリティーの課題だけでなく、すべての人の多様性を意識すべきだ」


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「みんなちがって、みんないい」社会に向けて

 「子どもたちは『校則だから』『決まりだから』『伝統だから』と、不合理な理由に納得できていない。納得できる理由があれば、子どもたちは従うだろう。納得できないからモヤモヤが残る」。子どもたちの疑問を放置すれば、彼らの将来にとっても悪影響を及ぼすと強調する。

 「まともな返事が返ってこなければ、子どもたちは考えることをやめてしまう。考えない子どもは、考えない大人になって、考えない親になる」。ルールに従順だが、ルールの枠内で思考停止に陥りがちな「日本人」への率直な疑問だ。

 クレシーニ准教授は、山口県出身の童謡詩人、金子みすゞ(1903~30年)の代表作『私と小鳥と鈴と』の一節を紹介する。「小学校で『みんなちがって、みんないい』と習うけど、日本社会はそうじゃないから子どもたちは混乱する。若者と話すと、彼らは大人よりも多様性について理解しているように感じる。子どもたちをもっと信じた方がいい。大人は校則をなくしたら管理ができなくなると心配しているようだが、子ども扱いしすぎ。責任を持たせて、信じてあげるべきだ」

 そして、大人たちにこう呼びかける。「ブラック校則を変えたいなら声を出し続けないといけない。アメリカでは学校の銃乱射事件が起きる度に世論が高まるが、時間がたつと風化して、何も変わらず次の乱射事件が起きる。日本でブラック校則が話題になっても、時間がたつと忘れられ、新たなブラック校則がニュースになる繰り返しだ。ブラック校則は多くの人が問題視している。子どもたちは自ら声を上げにくいから、大人がもっと声を上げるべきだ。声を上げ続ければ社会は変わると思う」

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教育アドバイザー・下地敏雄さんはこう考える

 福岡県内の公立中学・高校で教員経験がある教育アドバイザーの下地敏雄さんは、ブラック校則についてどのように考えているのだろうか。意見を聞いた。

 「校則は必要だが、時代に合わせて見直す必要はある。社会のグローバル化によって外国籍の子どもは増えている。ジェンダーについても多様な考えが浸透しつつある。社会の実情を踏まえず、時代に合わない校則を運用しているのであれば、学校側の怠慢だと思われても仕方ない」

 「集団生活においてルールは大切だ。そういったことを学ぶという観点からも、校則は機能していると思う。文科省が示した校則の見直しに関する取り組み事例では、学校と生徒、保護者が協力して校則を見直す事例を紹介している。ただし、これは学校側の力量が問われる」

 「教員をしていた経験から話すと、生徒を校則で縛る『管理教育』の方がはるかに大変だ。生徒指導にはかなりのエネルギーを費やす。何度も遅刻する生徒に電話をかけたり、自宅まで起こしに行ったこともあった。子どもたちが集団生活のルールを学ぶという教育的な観点を踏まえつつも、時代に沿わない行き過ぎた校則は見直されるべきだろう」


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