急な雨、コンビニに駆け込むその前に…地球にやさしいシェア傘が福岡でも拡大中
記事 INDEX
- 便利+環境で利用者拡大
- なくならない傘の忘れ物と廃棄
- 個人や企業は前向き、国はというと…
急な雨、あいにく折りたたみ傘を持っておらず、コンビニに駆け込んでビニール傘を購入する。皆さんはそんな経験、ありませんか。いつの間にか自宅に増えていく透明な傘。オフィスの傘立てには持ち主不明のビニール傘がほこりをかぶったまま。そんな傘にまつわるモヤモヤを解消しつつ、地球環境にも優しい雨傘のシェアリングサービスが福岡でも広がっています。
便利+環境で利用者拡大
「2030年までに傘の使い捨てをゼロにするのが私たちのミッションです」。そう語るのは雨傘のシェアリングサービス「アイカサ」を福岡、東京など10都府県で展開するNature Innovation Groupの丸川照司代表です。
アイカサは1日70円で傘を借りられるサービス。福岡県内では、福岡市を中心に130か所のレンタルスポットが稼働しています。
急な雨でも手を差し伸べてくれる「便利さ」が支持され、利用者を増やしてきたアイカサ。最近は傘の廃棄を減らしたいという個人や企業の環境意識の変化が、追い風になっているそうです。
「サステナブル(持続可能)な社会の実現に向けた取り組みとして、私たちのレンタルスポットを職場に設置したいという企業が増えています。便利さだけでなく、環境に優しくありたいという社会全体の意識の変化を感じています」
アイカサは2018年12月のサービス開始から順調にレンタルスポットを増やし、今では首都圏や大阪、愛知、福岡など都市部を中心に約850か所へ拡大。24日には佐賀県でもサービスが始まりました。「コンビニは約5万6000店舗(2020年末現在)。2030年までに使い捨てをゼロにするというミッション達成のため、レンタルスポットは全国2万か所に増やしていく計画です」
なくならない傘の忘れ物と廃棄
アイカサが重点的に事業展開しているのが、鉄道各社の駅。福岡市地下鉄にはほぼすべての駅にレンタルスポットがあります。一方、鉄道会社を昔から悩ませているのが、傘の忘れ物です。
福岡市地下鉄での傘の置き忘れについて、福岡市交通局に聞きました。2016年度から2019年度までの年平均で約1万1500件の置き忘れがあったそうです。うち約3000本が持ち主へ返還され、約3500本がバザー販売や寄付でリユースされています。それでも約4500本は廃棄せざるを得ません。
コロナ禍で地下鉄の利用が落ち込んだ2020年度は置き忘れが7312件に減りましたが、遺失物のバザー販売会は中止に。福岡市地下鉄の遺失物保管室には行き場を失った大量の傘が積み重ねられています。
保管室を案内してくれた市交通局の職員は「傘の置き忘れは車内が多いです。傘を手すりにかけ、スマホを見るなど意識が違うことに向かうと、高い確率で傘の存在を忘れてしまいます。私は傘を手放さないよう心がけています」とアドバイスします。
個人や企業は前向き、国はというと…
日本洋傘振興協議会の推計では、傘の国内消費は年間1億2000万~1億3000万本。この7~8割をビニール傘が占めているとみています。
個人や企業は傘の使い捨てを減らすことに関心を強めています。環境省は2012年にビニール傘の製造から廃棄までの環境負荷を試算したデータを公表。しかし、数値の正確性を理由に試算を取り下げ、現在もそのままになっています。
環境問題に取り組もうとする企業側からすると、二酸化炭素の具体的な削減効果を示す説得力のある「数値」がほしいところ。環境省は「複数の企業からビニール傘が及ぼす環境負荷について問い合わせを受けていますが……」と明かすものの、新たな数値の算定には至っていません。データがないため、同省の担当者は「現状では『分からない』というお答えしかできません」と言います。
アイカサでは二酸化炭素の削減効果を独自に「見える化」し、利用者に情報として届けています。効果の見える化の拡大は、利用者のモチベーションにもつながりそうです。「生活の便利さを享受しつつ、地球環境にも貢献したい。それがきちんと利用者に伝わる仕組みは重要です」。丸川さんは指摘します。