市民のための動物園へ創意と工夫 二十歳を迎える北九州「到津の森公園」

記事 INDEX

  • サル山の緑化に取り組む
  • 表情豊かなカレンダー
  • 「これからも進化を」願う

 北九州市小倉北区にある動物園「到津(いとうづ)の森公園」は、4月13日に開園20年を迎える。その前身、「到津遊園」の時代を含めると90年近く、地域の人たちに親しまれてきた。昔ながらの設備も多く残るが、飼育員らが創意工夫を凝らし、魅力ある園づくりに取り組んでいる。

(写真:大野博昭)

<到津の森公園>
 前身の到津遊園を北九州市が受け継ぐ形で2002年4月に開園。飼育動物は約90種類、480匹。ミモザや桜など植物も多く、20年度の入園者数は約26万人。

サル山の緑化に取り組む

 「サル山といえばコンクリートというイメージを変えたいんです」。ニホンザルの世話を担当する飼育員、延吉紀奉(のぶよし・のりとも)さんは、コンクリートのサル山に草木を植え、緑化を目指している。野生のニホンザルが暮らす山林の環境をできるだけ再現することが目的だ。

 1989年に完成したサル山は、広さ約500平方メートル。当時は、日本の動物園のほとんどがコンクリートのサル山を作っていた。しかし、野生のニホンザルは山林で木の葉や昆虫などを食べている。近年は、緑の多い施設でサルを飼育する動物園も出てきた。


 到津の森公園でも10年以上前から緑化の取り組みが始まり、2年前からは延吉さんが担当している。コンクリートの壁に木材で柵を設置して土を入れ、園内にある植物を掘り起こし、サル山に植え替える。

 飼育しているニホンザルは現在48匹。草木が根っこまで食べられてしまうこともあるが、また植え替える。そんな作業を何度も何度も繰り返し、少しずつ草木を増やしてきた。

 まだまだコンクリート部分が多く見えて、道のりは遠いが、「木に囲まれて暮らすことが、サルにとってもストレスが少ないし、来園者にもニホンザルの生態について正確に理解してもらえる」と前向きだ。



 幼い頃から動物が大好きで、高校3年の時、当時の到津遊園に「飼育員として働きたい」と自らを売り込んだ。卒業前の約2か月間、園に実習に通い、そのまま就職した。現在はニホンザルのほか、アライグマの世話も担当。「図鑑などで知識を身につけてはいたが、実際に動物と接する中で自分も成長できることがうれしい」と笑顔を見せる。

 園内には、サル山用の草木を育てるスペースも設けており、サルが好むイヌビワやシマトネリコなどを育てている。「将来は、植えている植物の葉や花を食べている姿や、土の中から虫を探して食べる姿を見てもらえるようにしたい」。そんな目標を胸に、今日も草木を植える。



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表情豊かなカレンダー

 やさしい目をしたゾウ、ピンクのフラミンゴ、今年の干支(えと)にちなんだトラ――。到津の森公園で飼育員として働く中嶋麻海さんが、園で飼育している約40種類の動物を描いたカレンダーだ。大学で日本画を学んだ経験を生かして、ほぼ毎年作製している。

 販売開始から1か月ほどで完売した2022年版は、「開園20周年」をテーマに、園で暮らす動物たちの穏やかな様子を描いた。「新型コロナウイルスの感染拡大で"おうち時間"が長くなる中、楽しみの一つとして日々、カレンダーを見てもらいたい」という願いをこめたという。

 年によって絵柄は少しずつ変える。2020年版は、東京五輪・パラリンピックを前に、躍動感あふれるタッチにした。21年版は「コロナ禍で疲弊する人たちに安らぎを感じてもらいたい」と、くつろいだ表情を描いた。


 飼育員になった2006年から、園のパンフレットや飼育員の名刺のイラストなどを描いてきた。そんな中、園の広報用のカレンダーが余って捨てられているのを見て、心が痛んだという。「動物についてもっと知りたいと思ってもらえるようなものを作りたい」と08年から作製を始めた。

 最初は、園の運営を手伝っている動物サポーターや「友の会」の会員、出入り業者に配布していたが、「かわいいので家族の分もほしい」と好評で、2016年から販売が始まった。


 毎年8月頃からテーマを考える。飼育のすき間時間を使い、動物を見ながら下書きをして、デッサンや彩色をして年末までに仕上げる。

 ほかの飼育員たちも、園内の説明板を作ったり、イラストを描いたりしており、園内の各所で手作りのものが来園者を楽しませている。大学生の頃、職場体験で園を訪れ、そんなスタッフの姿を見たことが、飼育員を志したきっかけだ。

 「動物たちのことを伝えるために、みんながそれぞれ工夫して、生き生きと働いている。それが到津の動物園の魅力です」と笑った。


「これからも進化を」願う

 到津の森公園の名物園長として知られた岩野俊郎さんは、園の20周年を目前に3月末で退任した。前身の到津遊園に1972年から勤め、約50年の間、園を見守ってきた。「市民のための動物園を目指し、ずっと駆け足だった気がする」と振り返る。

 大学で獣医学を学び、到津遊園で長年、獣医と飼育員の二足のわらじで働いた。1997年に園長に就任。その後、園は経営不振によって一度は閉園したが、計26万人の市民の署名によって北九州市が所管する動物園として再オープンした。


 園長を再度任された中で、市民からの署名には「園の森を残してほしい」「園の動物を残してほしい」と半数ずつの声が寄せられていた。「市民のために残った動物園なのだから、どっちも残して唯一無二の動物園を作ろう」と決意し、園の改造を始めた。

 到津遊園の頃にあった遊園地の遊具はほとんど撤去し、新たに空間を設けて動物たちが広く暮らせるスペースを作った。コンクリートの展示施設を少なくし、土や緑を増やして自然に近い形の展示スペースを作った。

 「公園」としての一面を残すために、草木の数を増やした。「到津の森公園に行ったらあの花を見ることができる」といった園のイメージづくりにもこだわり、四季折々の花の開花情報をホームページで発信。集客広報係長の平野尚子さんは「岩野園長は到津の核になってくれた」と話す。


 現場主義を貫き、園長になっても20年以上、作業服で働き続けた。3月26日に市内で行われた退任記念講演会には多くの市民が集まった。この日も作業服姿で講演を行い、終了後は市民と言葉を交わしながら記念撮影に応じていた。

 岩野さんは「これからも市民に愛され、進化する動物園であり続けてほしい」と願っている。



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