最新のデジタルアートにふれる夏 「ボス イーゾ フクオカ」で
記事 INDEX
- 名画を旅する
- 光の森で冒険
- 絵になる空間
暑い日が続く夏、涼しく快適に楽しい時間を過ごせるスポットはないものか――。探してみると、面白そうな場所があった。福岡ペイペイドーム(福岡市中央区)の隣、複合エンターテインメント施設「BOSS E・ZO FUKUOKA(ボス イーゾ フクオカ)」にある二つのデジタルアート空間に出かけてみた。
名画を旅する
施設6階で開かれているのは「イマーシブミュージアム フクオカ」。幅22メートル、奥行き7メートル、高さ4メートルの空間を一つのキャンバスに見立て、世界の名画をデジタル映像で鑑賞する。「鑑賞」とは趣が異なり、自身が絵画の世界に入り込み、”アートの海”に身をゆだねているような不思議な感覚に浸れる。
「会場に来てもらえたら『こんな迫力の世界があるんだ』と分かってもらえるはずです」。担当者の言葉に導かれて訪ねると、初めて目にする空間が広がっていた。
会場では、モネの「睡蓮(すいれん)」、ドガの「踊り子」、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」など印象派の名画の数々が迫力いっぱいに映し出される。体にずしりと響く音楽とともに映像は次々と変化し、体験したことのない演出に息をのんだ。
エアコンの利いた暗い空間で、来場者は人目を気にせずクッションに座ったり寝そべったりしながら、“動く名画“の演出を楽しんでいた。
特に目を奪われたのは「睡蓮」の映像。モネが19世紀に見たであろう情景を、最新のCG技術によって、あたかもその場にいるかのように再現する。
モネの自宅の庭を描いた絵が、額縁から飛び出し、壁さらには床一面に広がっていく様子は圧巻だ。絵の中の橋をくぐるような映像では淡いタッチで描かれた絵画の世界に、自分自身が溶け込んでいくようだった。
佐賀県唐津市から職場の同僚と訪れた出羽紀子さんは美術館巡りが趣味だという。「絵画がズームで迫って来てびっくりです。何度も重ねて塗られた筆の運びまで映像で細やかに表現されていて面白かった」と満足そうに話していた。
美術館にあまり行ったことがない若い人たちが気軽に芸術に触れ、「アートって面白いじゃん、と感じてくれたら」と担当者は話す。
入場料は大人1900円、中高生1400円、子ども(4歳以上)600円。9月10日まで開催している。
光の森で冒険
驚きの映像を目にした6階から5階に移動すると、デジタルミュージアム「チームラボフォレスト福岡」がある。
デジタルアートの創作集団「チームラボ」(東京)による常設展示。スクリーンに映像を映したり、光を照射したりして、広い空間全体を彩るアートを実現した。
ここでは、「捕まえて集める森」と「運動の森」という二つのテーマで楽しませてくれる。
捕まえて集める森は、「捕まえ、観察し、解き放つ」がコンセプト。木々の間から姿を現すゾウやフラミンゴなどに、専用アプリをダウンロードしたスマートフォンを向けて「観察の矢」を放つ。すると動物がアプリ内に保存され、自分だけの図鑑を作ることができる。子どもたちはスマホを手に、夢中で動物を集めていた。
壁や床にジャングルと海が投影され、デジタルの生き物がうごめく世界。大人たちも、ゆっくりと動く色彩豊かな動物を眺めたり、写真を撮ったりして楽しんでいる。
運動の森は、弾力のある床に人が立つと沈み込み、そこに光の粒が集まる仕組みになっている。歩くと粒は弾け、また別の模様を作っていく。
人の動きに合わせて映像は変わり続け、同じ空間は二度と現れないそうだ。床に描かれた地層が変化するのを、じっと見つめる人たちも多く見られた。
丸く柔らかい大小の「飛び石」は踏むと光り、音が鳴る。体全体がふわふわとし、鮮やかな光の世界へ吸い込まれてしまいそうな作品だ。
三角形の鏡に囲まれた万華鏡のような通路は、子どもや外国からの観光客に特に人気。「アメージング!!」。鏡に囲まれた空間で写真撮影を楽しむ歓声が響いた。
チームラボの常設展は、大人(16歳以上)2200円、子ども(15歳以下)800円。
絵になる空間
連日の猛暑。涼むのにも適した二つの会場は、どこから切り取ってもインスタ映えするスポットだった。もっとも絵になる場所、アングルを求めて、それぞれの場でしばらく立ち止まって考えた。
「ここから撮ってみてよ」「あっちの方が絵になるんじゃない?」「どちらを選ぶの?」――。暗い空間に浮かびあがる動物たちに、そんな言葉を投げかけられているようだった。
「絵になる」あまりに、被写体側に主導権を握られ、導かれるままカメラを向けてシャッターを押し続けているような錯覚に陥る。誰が撮っても絵になる世界。カメラマンの力量が問われる空間のようでもあった。