伝統行事を支えるチカラに!福岡県の「お助け隊」が活動開始

お助け隊が初出動した福岡県筑後市の「鬼の修正会」

記事 INDEX

  • 初出動は「鬼の修正会」
  • 存続へ好循環に期待!
  • 熱い思いで盛り上げる

 存続の危機にある伝統を守りたい――。高齢化や人口減少などで、地域の祭りや行事の担い手が不足しています。福岡県は県内外から“助っ人”を募るために創設した事業「地域伝統行事お助け隊」で、1月6日にボランティアを初めて派遣し、同県筑後市で500年以上続く火祭り「鬼の修正会(しゅじょうえ)」に6人が参加しました。

初出動は「鬼の修正会」

 鬼の修正会は、直径約1.5メートル、長さ約13メートル、重さ約1.5トンの大松明(たいまつ)の先端を支えながら境内を引きまわす神事。無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈り、火の粉や煙を浴びると病気にならないなどの御利益があるとされます。


1本あたりの重さ約1.5トンという大松明

 祭りの当日、同市の熊野神社には、白い短パンをはき、サラシをまいた男たち50~60人が集まりました。地域住民やお助け隊のほか、市観光協会が募集した参加者、市職員が応援に入りました。

 祭りのクライマックスは大松明に火がともる瞬間です。午後9時過ぎ、社殿から運ばれたご神火を松明に近づけると一気に燃え上がり、境内がぱっと明るくなりました。


燃え上がる大松明を囲む男たち。松明を支える刈又を手にしている

 鐘と太鼓が交互に鳴り響く中、男たちが刈又(かりまた)と呼ばれる長さ2~3メートルの棒を松明に突き刺して持ち上げます。男たちの「わっしょい、わっしょい」のかけ声とともに、燃えさかる大松明を支えながら動かし、境内を3周します。

 「手がブルブル震えます」。お助け隊として参加した福岡市の会社員・池田澄彦さん(54)が興奮気味に言いました。池田さんは半年前に広島から転勤してきたばかり。「お互いに知らない間柄だったけれど、輪になって力合わせて大松明を掲げたときの一体感がすごかった。また参加したい」と振り返りました。


刈又で支えられ、境内をまわる大松明。大勢の観衆が見守った

 筑後市や市観光協会などによると、神事は同市の年初め行事で、遅くとも約500年前に始まった火祭りが起源とされます。県の無形民俗文化財にも指定され、観光客やカメラマンが毎年訪れます。しかし近年は担い手が減り、松明を引くこと自体が危ぶまれる状況になっています。


「また参加したい」と話すお助け隊の大友さん(左)と池田さん

 お助け隊として加わった太宰府市の会社員・大友悟さん(60)は「肌と肌で感じる人とのつきあい方、今の世の中ではあまり体験できないぬくもりを実感しました。これが地域で500年以上受け継がれてきた良さなのでしょうね」と、すすで汚れた顔をほころばせました。

存続へ好循環に期待!

 「松明を落とさず無事にまわることができました。ありがたいです」。宮総代会の城戸孝行会長(64)が安堵(あんど)の表情を浮かべました。


祭りの存続に取り組む城戸さん


 市観光協会によると、境内で大松明を周回させるには、1本あたり最低20~30人の力が必要だといいます。地区の高齢化が進む中で、寒空の下、締め込み姿で体力を消耗するといったこともあり、地元でも人員確保に苦慮しているそうです。

 観光協会は10年ほど前から外部の参加者を募り、市も職員が応援に入って、伝統を守ってきました。しかしコロナ禍が追い打ちをかけ、2023年には担い手が30人ほどしか集まらず、3本ある大松明のうち1本しか引けませんでした。城戸さんは「まわし手がより少なくなり、危機感がありました」と打ち明けます。

 そんな中、お助け隊創設のニュースを新聞で知り、市の勧めもあって、隊員の派遣を県に要請したそうです。


円陣を組んで自己紹介も行った。中には関東から駆け付けた人も

 今年は2本の松明を引きました。城戸さんは「今回来てくれた人たちが友人を誘って、次回の参加者がさらに増えたらうれしいです」と喜んでいました。

 お助け隊は鬼の修正会に続き、翌1月7日に久留米市の大善寺玉垂宮で行われた「鬼夜」でも活躍しました。

熱い思いで盛り上げる

 お助け隊は、祭りや伝統行事に関心のある福岡県内外の人と、地元の保存会や団体をつなぐ事業として2023年8月に始まりました。県によると、こうした取り組みは全国的に見ても珍しいといいます。

 活動に関心のある人は、特設サイトで名前や連絡先を登録すると、サイトに掲載された行事に申し込めます。新たな募集が追加されると、随時メールで通知する仕組みで、1月10日現在で196人が登録しています。

 一方、お助け隊の派遣を求める地域の団体などは、各市町村を通じて申請します。


お助け隊の特設サイト

 派遣対象は、主に国や県、市町村の指定を受けた無形民俗文化財など約250件。参加者は原則無償で、祭りの運営やみこしの担ぎ手、舞台の演者などを務めます。当日だけのほか、練習を含めて数か月にわたる場合もあり、活動中のボランティア保険は県が負担します。

 県には、「担い手不足で行事の開催が困難な状況にある」という声が自治体の担当者から多く寄せられているそうです。

 県政策支援課の白垣幸助地域政策監は「活動を通じて地域の輪に入ってもらい、その土地のファンが増えたらうれしい」と話します。伝統行事を”入り口”に関係人口を増やし、将来的には移住定住にもつなげていきたい考えです。



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