福岡市民は緑が大好き あっちにこっちに「保存樹」がいっぱい

生い茂った葉の影が車道を覆う鷹取延命地蔵尊近くのクスノキ(中央、福岡市南区で)

記事 INDEX

  • 「保存樹」が多い福岡市
  • 地域とともに歴史を刻む
  • 「一人一花」で街に彩り

 福岡市内には大きな木が多いと思いませんか? 神社の境内や道路沿い、住宅街など場所は様々。それもそのはず、福岡市は歴史ある大樹を後世に残す「保存樹」の指定本数が、全国トップレベルなのです。
 


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「あるのが当たり前」の木

 福岡市南区三宅の国道385号。交通量が多い幹線道路のすぐ脇に、高さ20メートルを超えるクスノキが立っています。生い茂った葉の影が車道の半分を覆い、歩道は木の根元を避けるようにカーブを描いています。

 「住民なら"大きなクスノキ"と言えばすぐに分かります。待ち合わせ場所になっていますよ」。木のそばにある「鷹取延命地蔵尊」の護持会の簑原忠徳さんが教えてくれました。


「クスノキを後世まで残したい」と話す簑原さん(福岡市南区で)


 樹齢200年以上。かつては木の下に土俵があり、子どもたちの歓声がこだましたそうです。30年ほど前、道路の拡幅工事に伴い伐採の話が持ち上がったときは、護持会が行政と交渉し、歩道を曲げてもらうことで地域のシンボルを守ったといいます。簑原さんは「あるのが当たり前だと思っている木。後世まで残したい」と、クスノキを見上げて言いました。


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保存樹の数は全国トップ級

 福岡市城南区田島の田島八幡神社では、ご神木のクスノキが大きな枝を広げています。高さは19メートルを超え、幹回りは11メートル以上。明治時代、大量に発生した害虫が葉を食べ尽くそうとした際には、住民たちが4日間で1万7000匹以上を駆除したという話も伝わります。


地域住民が大切に守ってきた田島八幡神社のクスノキ(福岡市城南区で)

 保存樹は、貴重な樹木の保護や景観維持のために自治体が指定します。福岡市では、①地上1.5メートル部分の幹回りが1.5メートル以上②高さ15メートル以上――などの条件を満たす樹木の所有者に、指定を積極的に働きかけてきました。保存樹に指定した後は、枝切りなど管理費の一部を負担しています。

 国土交通省によると、保存樹は法律や条例などに基づいて全国に約6万5500本あります。福岡市では全国5位の1849本(2017年3月末現在)が指定され、同省公園緑地・景観課の担当者は「全国トップクラス」と太鼓判を押します。


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地域のシンボルを後世に

 なぜ保存樹が多いのでしょうか。福岡市みどり活用課の名川学課長は「高度経済成長期に都市開発が進むなか、地域のシンボルや緑を残そうという機運が高まったのではないでしょうか」と話します。


縁結びの御利益があるとされる愛宕神社参道のスダジイ(福岡市西区で)


 福岡市が最初に保存樹を指定したのは1972年9月で、一気に179本が対象になりました。当時の市長、進藤一馬さん(故人)は緑化への思いが強かったとされ、保存樹ではないものの、「桧原桜」(福岡市南区)のエピソードは有名です。

 1984年春、道路拡幅のため伐採されそうになった桜を残してほしいと、"命乞い"の歌が市民によって次々と幹に結ばれ、これに進藤さんが返歌して、伐採計画は中止になったというものです。進藤さんは14年にわたる任期の中で「100万本植樹運動」も進め、街路樹や公園の木を増やしました。

 市内の保存樹はピークの2005年に2000本を超えましたが、近年は所有者の高齢化などにより、指定を取り消されるものが出ているそうです。名川課長は「後世まで保存樹を残せるように支援していきたい」と話しています。


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街に彩り「一人一花運動」

 福岡市では2018年から、市街地を花で彩る「一人一花運動」も始まりました。道路沿いや公園などに、企業が資金を出して花壇を整備したり、市民有志が花壇を管理したりするもので、参加企業・団体は延べ500(2020年2月1日現在)を超えています。


市街地を彩る「一人一花運動」の花壇(福岡市中央区天神で)

 2019年に福岡市が行った「市政に関する意識調査」では、福岡市のことが好きと答えた市民は96.6%、市民や訪問者のために役立ちたいと答えた人は76.2%にのぼりました。福岡市の上原真之・一人一花推進課長は「郷土愛の強さも取り組みが広がった要因」とみています。


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