家族に寄り添って10年 こども病院敷地内の「ふくおかハウス」

「ホッとできる場所に」と話す舛元さん。部屋のベッドには、ボランティアが手作りしたパッチワークのカバーがかけられている(5月下旬、福岡市東区で)

記事 INDEX

  • 近くにいられる安心感
  • 10年で7070世帯が利用
  • 運営費の確保が課題に

 福岡市東区の市立こども病院敷地内にあり、治療中の子どもに付き添う家族が安価で宿泊できる「ドナルド・マクドナルド・ハウスふくおか」(ふくおかハウス)が今年、開設10年を迎えた。心臓病治療などで、九州一円などから入院する子どもの家族ら延べ7000世帯以上に寄り添ってきた。賛同者や企業の寄付が頼りで、関係者は地域の人が施設を見学できる機会を設けるなど、認知度アップを目指している。

近くにいられる安心感

 「近くにいられる安心感が大きかった」。6月中旬、ふくおかハウスを利用した佐賀市の女性(31)はそう振り返った。

 生後5か月の長女は心臓に病気があり、こども病院でこれまで計5回の手術を受けた。ミルクやオムツ代、入退院時の交通費などの負担は重く、ハウスの存在が経済的な助けになったという。

 術後に容体が急変した時には、病院から電話を受けて5分ほどで手術待合室に駆けつけることができた。「ハウスに戻ると、職員の方が『お帰りなさい』と迎えてくれた。自分のことで精いっぱいな時に、気持ちも明るくなった」と話す。


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10年で7070世帯が利用

 「マクドナルド・ハウス」は1974年、米国で誕生した。マクドナルドが世界の店頭で募金するなどして支援し、日本では公益財団法人「ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン」(東京)が全国12か所で運営する。患者家族の利用料や企業・団体からの寄付金で賄われ、地域のボランティアがベッドメイキングや備品の管理を担う。

 ふくおかハウスは同病院が市中心部から2014年に東区のアイランドシティに移転したのを機に、翌15年5月に開設された。2階建てでシャワー付きのベッドルームが21室あり、家庭ごとに食材を保存できる共用の冷蔵庫やキッチン、洗濯機などを備える。


開設10年を迎えた「ドナルド・マクドナルド・ハウスふくおか」

 心臓病といった高度医療を担う病院は限られており、同病院には九州一円をはじめ各地の小児患者が通院・入院する。保護者やきょうだいたちが1人1泊1000円で利用できるハウスは貴重な存在だ。

 この10年間の利用世帯数は延べ7070世帯。ハウスによると、出生後すぐにドクターヘリで運ばれてきた子の父親は病院側に位置する部屋に泊まり、「病院が見えて安心」と話したという。同じ治療をする子の母親同士が互いに励まし合う姿も見られる。

運営費の確保が課題に

 ただ、格安の利用料を維持しながらの運営は厳しい。ふくおかハウスは独自に地域のイベントで募金活動などに励んでいるが、近年の光熱費高騰などが重くのしかかっている。コロナ禍でハウスの利用者数が制限されたことで、約200人いたボランティアの登録は半減し、現在も8割ほどにとどまっているという。

 寄付やボランティアを増やすには認知度を上げる必要がある。ハウスは10月4日、地域の人に施設を見学してもらうオープンハウスを開催するほか、フォーラムも開き、医師の講演や利用家族らによるパネルディスカッションを予定している。開設時からマネジャーを務める舛元啓二さん(63)は「利用者に『一人じゃない』と思ってもらえるような場所を提供し続けたい」と話している。


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