東京五輪・パラへ着物で世界を表現 久留米の呉服店主が願う平和と友好
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東京五輪・パラリンピックに向け、213の国・地域の文化や自然をイメージした着物を作る「KIMONOプロジェクト」で、最後の1着となる日本の着物が完成した。関係者は「平和と友好のメッセージを発信したい」と願う。
6年前から"世界"を準備
一般社団法人「イマジンワンワールド」(東京)が、あらゆる国や地域、難民選手団の参加を想定し、6年前から進めてきた。1着200万円の制作費は国内外の企業や個人らの寄付で賄い、全国の職人や工房に制作を依頼。日本の着物は京友禅の老舗「千總(ちそう)」(京都)が手がけた。日の丸をイメージし、縁起の良い「束ね熨斗(のし)文様」と呼ばれる柄になっている。
法人の設立者で、福岡県久留米市の呉服店「蝶屋」3代目の高倉慶応さんは「一つ一つの着物に物語がある。自国以外の文化や歴史に触れるきっかけにしてほしい」と話す。
自分のルーツと向き合う
KIMONOプロジェクトに携わったことで、自らのルーツを見つめ直した人もいる。
日本人の父と中米・グアテマラ人の母を持つ大分市の田島聡子さんは昨年夏、愛という意味を込めた団体「アモール グアテマラ」を設立し、グアテマラの着物と帯の制作費に充てる寄付集めに奔走。「この着物には差別をなくすための力がある」と訴える。
グアテマラで生まれ、小学校入学を機に大分市に定住した。学校では「ガイジン」と言われ、外を歩けば常に周りの視線を感じる毎日で、「ずっと日本人になりたいと思ってきた」。社会人になっても人付き合いに悩み続けた。
3年前、グアテマラを約30年ぶりに訪れ、そうした気持ちが変わった。生まれた病院に行ったり、ラテンの音楽に合わせて踊ったりして1か月を過ごし、自分のルーツに向き合えるようになったという。翌年、大分県内で開かれた少年サッカーの国際大会で君が代の独唱を依頼された時は、着物の帯にグアテマラの民族衣装を巻いて歌った。
その後にプロジェクトを知り、国際友好を呼びかける趣旨に共感。寄付集めを通してグアテマラの魅力を伝えることで、「ハーフであることが自分の個性」とより強く思えるようになった。「私は着物に救われた。このプロジェクトで、いろんな差別が少しでもなくなればうれしい」と話す。
着物で表現される多様性
昨年5月に開かれた着物ショーでモデルを務めた早稲田大大学院1年の林美沙さんの母は、ステージに登場した着物を目にして涙を流したという。
祖父が日本兵に殺されたという中国人の母は、日本に対し「自国の文化を押しつける」という印象を持っていた。ところが、プロジェクトで作られた着物には、様々な国の文化や自然が自由に描かれている。日本の伝統工芸品である着物が「世界」を受け入れているように見え、抱き続けた日本への負のイメージが崩れたという。
10月に京都で展覧会開催へ
完成した213着は10月16~18日、京都市で一堂に展示される予定だ。プロジェクトを主宰する高倉慶応さんは「着物を通して、『平和と共存』のメッセージが世界に広がってほしい」と話している。