「花を贈るように」 日本酒文化を未来につなぐ老舗酒蔵の挑戦

菊美人の新たなパッケージを手にする江﨑さん
記事 INDEX
- 白秋ゆかりの「菊美人」
- 飲む場面を思いながら
- CFに反響! 広がる支援
花を渡すように、日本酒を贈ってほしい――。福岡県みやま市の菊美人酒造が日本酒文化の継承を見据え、ブランディングの刷新に乗り出しました。誕生日や祝い事、手土産など、さまざまなシーンに合った"贈り物"として喜んでもらえるよう、商品ラインアップを全面的に見直します。新たなパッケージの製作費などをクラウドファンディング(CF)で募ったところ反響は大きく、目標の100万円を初日で突破しました。
白秋ゆかりの「菊美人」
1735年創業の菊美人酒造は、柳川市出身の詩人・北原白秋の姉の嫁ぎ先です。酒瓶のラベルの「菊美人」の文字は白秋が書にしたためたものと伝えられています。
これまでは米の品種や磨き具合、香りの有無などによって、「純米大吟醸」「大吟醸」「純米吟醸」「特別純米」などと区別したカテゴリーを軸に、どれを購入するのか消費者に判断してもらっていました。
これからは、"スペック"で酒を説明する手法を見直し、「花冠(はなかんむり)」「移ひ菊(うつろいぎく)」「芽吹(めぶき)」「月映(つくばえ)」「夕凪(ゆうなぎ)」「鈴(すず)なり」といった商品名を付けて販売します。
いずれも白秋の作品などをもとに名付けたもので、贈る相手、飲む場面などをイメージしながら選べます。草花にちなむ言葉に由来し、一つひとつにストーリーが込められているそうです。
例えば「芽吹」は、早春の気配を記した白秋の作品の一節から着想を得ています。贈られた人が希望に満ちた未来へ芽吹くように、快気や門出を祝うシーンなどで飲んでもらいたいと名付けました。薄緑色の和装の外箱の中に、酸味や甘みの調和がとれた純米大吟醸酒が入っています。
「夕凪」は白秋が故郷の夕暮れを思って詠んだ歌がモチーフです。穏やかな香りが特徴の純米吟醸酒が、淡いピンク色の外箱に納められています。家族など親しい人とゆったりした時間を過ごしてほしいとの思いが込められています。
これらの企画を考えたのは専務で10代目の江﨑隆一郎さん(30)です。「花に花言葉があるように、お酒でも贈る人の思いを届けられるようにしたかった」と話します。
飲む場面を思いながら
日本酒の消費量は減少傾向が続き、年々厳しさを増している状況です。Z世代など若い人たちの酒離れも進んでいます。
菊美人酒造がある、みやま市瀬高町には、戦前は40軒ほどの酒蔵がありましたが、少しずつ姿を消していき、今では同社だけになりました。
2024年12月には「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。日本酒の文化を未来に残すためにはどうすればいいのか――。江﨑さんは「難しい専門用語で説明するのではなく、お酒になじみのない人が想像しやすいよう、場面を考えてコンセプトに落とし込みました」と話します。
社長で9代目の父・俊介さん(63)も「作り手としては、こんな料理に合うとか、こんな場面で飲んでほしいといった思いで酒に向き合っています。今回のアイデアはこれまでの菊美人の酒造りの考えにも合っています」と語り、息子の背中を押します。
CFに反響! 広がる支援
江﨑さんは、今回の挑戦に伴う新たな商品パッケージの製作費などを確保するため、CFサイト「CAMPFIRE」で1月14日から支援を呼びかけました。返礼品として、新パッケージの商品がいち早く届けられる権利や、酒造り体験などを用意したところ、その日のうちに目標金額に到達しました。
CFのページには「飲み比べたり、食事と合わせたり、大切な人への贈り物にしたりと、既にとてもワクワクしています」「日本酒の文化と伝統の継承のためにも頑張って」といったコメントが寄せられています。CFは目標金額を300万円に再設定し、2月28日まで募集しています。
父子の思いをのせた新たな商品は、3月15、16日の蔵開きでお披露目する予定です。酒店などに並ぶのは4月以降になる見通しです。江﨑さんは「『花を贈るように』お酒を楽しんでもらえる機会を提供できたらうれしい」と話します。「たくさんの人に、大切な人と心を交わす一時を過ごしてほしい」